星の王子さまとコンスエロ

平成13年の暮れに、買い逃した写真がある。眼を閉じて寄り添う二人の女性の、官能的で夢見る表情が素敵な一枚で、印画紙の下部にヴァルドグレースのアトリエ住所とマン・レイのサインがあった。画廊で出会った時には、赤い売約済のサイン。値段も手が届きそうで、本当に残念な写真だった。先日、その画廊のオーナーと、逃した写真の話をしたばかりだったのだが、地下鉄車内で、図書館で借りた書籍「サン・テクジュペリ伝説の愛」(岩波書店、2006年刊)を読んでいて驚いた。あの写真が図版で紹介されているのではないか。二人の女性の内、ジョルジュ・ユニュ夫人は知っていたが、左手のより若くて魅力的な女性を知らなかったのだ。以前からの知識では単にユニュの「女友達」、しかし、なんと「星の王子さま」の作者、アントワーヌ・ド・サンテクジュペリの夫人であったのだ。情熱的で話術の才にたけたエルサルバドルの女性、コンスエロ。彼女の物語が、前述の本に描かれている。

 写真が載った73頁に見入っていたら、わたしの方をじっと見ている女性に気が付いた。名古屋市営地下鉄の車内。きっと「サン・テクジュペリ」の名前に興味を持ったのだろうね。次々と夫を亡くした魔性の女、夫の神格化と共に消されてしまったコンスエロが蘇る。車内でわれを忘れてしまった。しかも、じっとそんなわたしをみていた人がいたのだから、驚きである。これも又、ひとつの「伝説」となるのだろうか。