ベルギー王立美術館展、最終一日前。

manrayist2007-06-23

 9時30分出発。久しぶりの大阪散策。阪急百貨店の改装工事の為、随分回り道してから大阪駅前の萬字屋書店へ。ジュンク堂(写真集が充実していると聞いたがハズレ)の後、堂島ホテル地下のお洒落な新刊書店ハックネットを覗く。建築関係が専門の洋書店で以前の店に行ったこともあったが、こちらは初めて。面出された書物が美しく照らし出されている。でも、めぼしいものがあるとは思えなかった(建築は専門外だからゴメン)。一階のレストラン・バー、ザ・ディナーの上階にもディスプレーされた書物。ムム。ホテルのエントランスも両壁面に書物。---インテリアとしての書物か。昔、百科事典の背表紙が一般庶民の教養の証しとして並べられたと云うが、デリケートなタイポグラフィーじゃなくて、離れた位置からボリューム感で見るもの、タッシェンやリゾリーの戦略ってこうしたものだよな、それに、のせられているのか、タイアップしているのかは知らないけど、「書物は作者と共に時代を切り開いていく孤独な営み」と思う、わたしとしては違和感をぬぐえなかった。この人たちとは、相容れないぞ。

 その後、国立国際美術館のベルギー王立美術館展へ。新聞社の広範囲な宣伝で心配していたが、混んでいなくて、助かった。ブリューゲル[父](?)「イカロスの墜落」が想像していたより明るく、小さく、緑がかった青であったのに驚く。真筆の問題は判らないが、細密な腕とは感じられなかった。画家の個性というより、当時の材料の関係だろうか。ヴアン・ダイクやヨルダーン等の巨匠には年代的なのか、地域性なのかなじめない、やはり暗く寒い、ティルボルフの「村の祭り」は良かった、これくらいか。でも、わたしの眼は19世紀以降のベルギー絵画には反応した。ジョゼフ・ナヴェスの「砂漠のハガルとイシマエル」、ヴォーゲルスの「吹雪」、写真に色鉛筆で彩色したクノップの「遠い昔」。知らなかった画家だがエミール・カラウスに強く惹かれる「陽光の降り注ぐ小道」とテムズ河の反射光シリーズの一点「太陽と雨のウォータールー橋、3月」。光と空間認識、近現代の感性なのだろう、画家自身も欧州からイギリスへ移動したりして地域性から解放されていく。個人主義なのだろう、カタログには「戸外の強い光のきらめきを描き出す彼独特の光輝主義」と説明されていた。ロンドンの湿気感を上手く表現している。今展覧会で一番良いと思った絵だった。そうして、いよいよお目当てのデルヴォーマグリットの展示場所に入った訳だが、「夜の帝国」が青く塗られたアーチの中に押し込められ、作品の神秘性を抹殺して置かれていた。なんなんだ、このあつらえは。青い空と白い雲、黒と窓の明かり、空の青と同系色を直ぐ横に、柱として置くなんて馬鹿じゃないの。展覧会は15-17世紀のフランドル絵画と1830年以降の近代絵画の二部構成らしいのだが、ベルギー国を橙、時代をこげ茶と青の三色で表現しているようだが、失敗だよな、名古屋市美のダリ展の時にも思ったが、大規模な展覧会を組織するとき、会場の華美で間違った演出に出会わされる観客はたまったものではない。今回は壁が白すぎて眼が疲れる。前半の展示では、柵の変わりに、侵入を防ぐ為の台が白く塗られていて、きつい反射光に眼がやられてしまった。わたし以外の観客も同感だろうな。北の国の暗い画面を明るく見せたい演出か?  まいった。

 いらいらして会場を出たが、常設展示の方は面白かった。ヴォルス、アルプ、瑛九デュシャン。そして、知らなかった人だが、ジャック・レイルナーにうなった。業界関係者(美術館、画廊、出版社など)の名刺35枚が、アルミニウム、プレキシグラス、木、釘でもって作品化されている、題して「お目にかかれて光栄です」、ユウモアかどうかは判らないが「目に見えない観念に重きを置いた」作品ということだろうか。そして、杉本博司「様々なる祖景」の圧倒的な展示コンセプト。頭をフリフリ、ブツブツ言いながら、暗い空間を円く、八の字、交差しながらとぼとぼと歩かされてしまった。作品の表面じやなくて、空間と共にある作者の考えの事だろうな、わたしは参ってしまった。(こちらは、感動の意味)

 その後、カロで遅めの昼食。サード・ギヤラリーを覗いてから、南森町に出る。天神橋筋商店街古書店巡り。天牛書店と矢野書店には楽しみがある。「レーニン・ダダ」を購入、そして、戦前のモダニズム、美術に特化したハナ書房を知る。ご主人に伺うと今年から営業を始めたそうで、元々はコレクターとの事。(サラリーマンだったのかな?) この店の商品構成には驚かされた。夢で見ていた古書店と出会った訳である。マン・レイも沢山在庫しておられた。展覧会のポストカード・セットなんて貴重だよな。挨拶代わりにアール・ヴィヴァン15号の、「特集=篠山紀信--マン・レイのアトリエ」を求めた。初対面で興奮し何を見ているのか判らないといった案配だった。

 今日の目的は、リーチ・アート(阪急古書のまち)で開催されている「読む人 林哲夫展」を拝見する事だった。デッサン、水彩、油彩と画伯のお人柄そのままの作品が気持ちよく展示されている。閉店間際の時間だったが、先客の方ともども、しばらくお話をお聞きし記念写真などを撮らせていただいた。そして、近くの居酒屋酔鯨亭に場所を変え、さらにお話をお聞きする。生ビールを飲みつつ、鯨盛合せ、ごりやうつぼの唐揚、姫市姿寿司などを頂く、どれもが美味で心から楽しんだ。有り難い一時だった。感謝。