シュルレアリスムと写真展

 旧知の学芸員Jさんが長い間あたため、全霊を込めた企画展「シュルレアリスムと写真---痙攣する美」展が始まった。会場の東京都写真美術館3階展示室に入ると運動の公式記録員マン・レイの撮った「醒めてみる夢の会」の下段にレンガ色の「シュルレアリスム宣言」が置かれている。展示構成の導入部にブルトンマン・レイ、ダリ、ローズ・セラヴイの肖像。ここにキキが入っているのは、女装したデュシャンと、キキの視線の関係だろうか、視線の先には機関誌「シュルレアリスム革命」が二冊、壁面にはアジェのとらえた日蝕をのぞくパリの人々。展覧会は街に入り、不思議な人間の痕跡をとどめるアジェの写真に続いて行く。シュルレアリスムは20世紀的意味の都市で生まれた思潮なんだと思った。展示の様子を具体的に書き込んでしまうと、これから観る方に先入観を与えてしまうようで申し訳ないのだが、わたしの印象メモとして残したいのだよね。シュルレアリスムは今を生きる意志のようなもの。「ナジャ」の開かれた頁には関連するボワフォールの写真が3点。別の壁面にはブラッサイの撮った夜のパリ、「サン・ジャックの塔」は良いな、行こうとする心だな。マン・レイの一角には「不滅のオブジェ」が。今回の会場にはシュルレアリスム関係書籍やドキュメントの一次資料(明治学院大学早稲田大学蔵他)が多数出品されているのでファンにはこたえられない。図版で理解したつもりの書影が、現物のリアリテイで心にささる。欲しいよな。展示は作品200点、文献資料40点で構成され、出品リストを作りながら拝見するとマン・レイ関連はおおよそ30点となっていた。

 昨夜までの作業で充実がピークとなっているJさんから、ランチをしながら展覧会の話をいろいろとお聞きする。予算と時間の制約の中で準備された彼女の苦労が良く判る。展覧会を記念する「アヴァンギヤルド」誌の特別号にサインを頂く。人との出会い、展覧会は、人のネットワークで作られていく。関連シンポジウム(4月20日)と連続記念講演会(4月26−27日)が予定されている。パネラーは鈴木雅雄、林道郎塚原史、千葉文夫。講師が巌谷國士といった超豪華な顔ぶれ、チャンスがあれば上京したい。

 会場にもどり、ゆっくりと拝見。そして、いろいろと考えさせられた。それぞれのシュルレアリスムといったものかな。ヴインテージの写真を沢山観たかったが、いたしかたない。その後、表参道の日月堂に移動し、エフェメラ談義をしばらく。同好の士は少ないんだよね。神保町に出て松翁へ。入ると店員がビックリの表情。「忘れ物じゃないですよ、素面でいただきたいの」と説明。天ざるをお願いする。どうして美味しいのだろう。熱々で口に入れると甘い。エビの尻尾なんて、殻の内側が甘いのよ、絶妙な歯ごたえなんだ。主人が揚げたてを席まで運んでくれる。活穴子はだし汁につけて、パクリ。蕎麦をツルツルと音たてると日本人の幸せを感じる。次ぎに食すのは何時かな土曜日だと4時に閉店だからな。後で情報誌を読んでいたら店主の小野寺松夫氏が紹介されていた。脱サラで始められたそうだが素材と仕事に納得する仕事をされる様子「本物はニセ者に負けちゃうんです。ニセ者のほうが強いんだね」と云う発言が残った。ダシやわさびや活き海老、本物である事は難しい、でも本物と接すると、昨日の小さな作品のように身体が喜ぶんだ。

 版画堂、魚山堂書店、小宮山書店、田村書店の二階をのぞいた後、神田古書センターへ。午後の目的はアベノスタンプでパリのポストカードを探すことだったが、上手くいかなかった。しかし、歩いていてサザビーズやクリステイーズのカタログがどれでも100円と云う表示を見てビックリ。チェックすると沢山出てきたが、暗くなった店頭ではしんどく、途中で断念。結局7冊でがまん。それでも、重いのだよね。

 新装なった東京駅の大丸で弁当を買い込み、新幹線へ。今回は日本橋すし○のにぎりをチョイスしたのだが、ハズレだった。小鰭が食べたかったので、一貫追加してもらったのにな。ぼんやり夜景を見つつビール。購入した資料をパラパラ眺めているうちに、ウトウトしてしまった。