やげんぼり 花見小路店

来日中の友人が酷暑の京都まで足をのばしてくれたので。祇園花見小路のやげんぼりで食事会となった。料亭一力を超え一本目を右に入った紅殻格子に赤土壁のしっかりした店構え。京町屋というより民芸風だな。通りのスナップを撮って店内へ入ると芸子衆の団扇が出迎えてくれた。友人は既に到着しているようすで、○○さんおそろいですと仲居さん。京都の夏は鱧の湯引きが楽しみだが、まず食前酒がわりの葡萄ジュース、外の熱気から料理が始まる糸口にちょうど良い口触り。日本風に生ビールで乾杯をして宴に入る。趣向を凝らした器に少量の美しい料理。写真を撮りたいが品がないのであきらめ、世間話をいろいろ、情報交換というより、業界事情を教えてもらうばかり。前菜、向付、温物となかなかよろしい。イクラ、太刀魚、じゅんさい、鱧のお吸い物など、日本酒の好きな相方とともに新潟・青木酒造の「鶴齢」を冷でいただく。お造りは鱧、鮪、鯛、そしてウニ、満足させてもらえる鮮度。氷を満たした容器に入ったお酒のとっくりが、二・三度倒れる。追加をお願いしたら、鳥のような面白い形のガラス容器に変わっていた。お肉や朴葉味噌焼きや賀茂茄子などをさらに楽しみ、「本好きにはクーリエ書体を使う気持ちは判るよ」と話も拡がる。お酒のあてに美味しいですよとからすみを頂いたり、湯葉の揚げせんべいをいただいたりと、続く。胡麻味噌の炊き合わせもいけるね。もっとも名前を知らない料理方法や食材が登場するので、楽しくいただくばかりのありがたい宴となった。ご飯は鯛の炊き込み、デザートはメロン。時間はあっというまに過ぎた。

 外に出ると幾分涼しい、「どこか巴里のようね」とは友人の感想。提灯に照らされた町並みはなんとも風情がある。それで、スナップをパチリ。祇園町を下がり、安井北門通りから下河原へ。石塀小路を抜けながら世間話、すてきな暗闇だ、そして、ガーデン・オリエンタル・京都へ。生ビールで再び乾杯。離れた土地の友人だから実際に言葉を交わす機会は少ない、でも、興味や関心領域は近いだろうな。帰り道、高台寺の辺りをブラブラしながら、「マン・レイ写真集1920-1934で、一番珍しいのは、初版の○○で」とか、キキ自伝の状態に関する話題などをしていると、わたしたちだけの石畳の道が世界に繋がっていると感じる。距離じゃなくて時代への迷路なんだろうな。友人はありがたい、とても助けられた一夜だった。深感。