「詩人・ダヴィデ王」マン・レイ油彩

朝顔の種を取り込んでから名古屋へ。社内販売の珈琲を飲みつつ飯島正の「ぼくの明治・大正・昭和」を読む。氏は1919-22年に京都で遊学(三高)され、新京極で映画館巡り、梶井基次郎北川冬彦などと交流された様子。街の雰囲気が判って興味深い。

 10時に名古屋市美術館に到着し、「20世紀のはじまり・ピカソとクレーの生きた時代」(註)を拝見する。数ヶ月前に担当学芸員のKさんからマン・レイの油彩が招来されると聞いて、楽しみにしていた訳。案内してもらい早速、作品と対面。歩みよりグイと目を近づける。不思議な赤い肌をした肖像。エジプトの壁画に描かれた赤、泥絵の赤かな、全体に暗いトーンだが、左肩の上辺りを遠景として明るい。---この部分の白が描き残しで筆遣いもぞんざい。へたくそなんだけど、良いんだよな。---マン・レイ独特の青色の夜空に白い絵の具を厚塗りした月、光が下方に届いているのかな。不安な雰囲気を醸し出すのは1938年の制作だから。この年のマン・レイ作品が一番好きだ、胸がキュンとなるんだよね。この作品は石膏像の頭部に毛糸が被してある写真を基にしたもの。マン・レイらしいアイデアだ。ミロとエルンストの大作に挟まれているが、十分に存在感を示している。タイトルは「詩人・ダヴィデ王」(油彩・キャンバス 55 x 46 cm)。作品解説のプレートが良かったので、転記しておこう。

 「ファッション写真で商業的な成功を収めたことで、1930年代、マン・レイは絵画にじっくりと取り組む余裕を手に入れた。本作もそうした時期に描かれた一点である。首を傾け、瞼を閉じた彫像。ミケランジェロの<瀕死の奴隷>から引用されたポーズである。旧約聖書の英雄ダヴィデ王は、詩と音楽の擁護者でもあった。この作品では詩人と王を重ねることで、人間の内なる世界が何者にも束縛され得ないことを示しているのだとも考えられよう。」

 欲しいな。見とれていたら副館長のK氏に声を掛けられた。「この出だしなら沢山入ってくれるだろう、優品がこれだけ集まった展覧会は久しぶりだ」とお聞きする。デュッセルドルフにあるノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館の改装工事に伴う貸し出しとの事。バウル・クレーが素晴らしいし、ピカソの「二人の座る裸婦」も堂々としてる。マックス・ベックマンの「夜」が一番保険金額が高いらしい。学芸員室でマン・レイ作品のコンディション・レポートを見せてもらい、学芸員のKさんHさんにカタログへサインをしていただいた。有り難い。地階の常設展示で10点並んだ河原温の日付絵画を観る。素晴らしい。そして、山本悍右の「伽藍の鳥籠」、下郷羊雄の「伊豆の海」「神様アブシュルド」にも再会。もちろん、フリーダ・カーロの「死の仮面を被った少女」も----このブリキ絵も1938年制作。

 美術館を出て名古屋画廊の森本秀樹展へ、気持ちの良い作品だ、オーナー氏と世間話。その後、山本屋総本家で味噌煮込みを食べ、愛知芸術センターのナディフでGQ8号のメレット・オッペンハイム特集号を求める(1974年から休刊していた、森本陽発行、限定500部)。図書室で必要なコビーを済ませ、金山橋に移動して母親のお見舞い、元気な様子でなにより。夜は兄姉3人で一結へ。てっさ、河豚の唐揚げ、鱈しらこの焼き、冷しゃぶサラダなどを食す。お酒は八海山、朝日山。白ワインも開けたがこれはハズレだった。

(註)http://www.art-museum.city.nagoya.jp/tenrankai/2008/picasso_klee/  会期は 名古屋市美術館10月18日〜12月14日、Bunkamura ザ・ミュージアム2009年1月2日〜3月22日 兵庫県立美術館2009年4月10日から5月31日