多様な文字の本

幸せな贈り物がミラノから届いた(現地18日発、郵送料11.50ユーロ)。大判(49 x 36 cm)の黄色い国際郵便はエアパッキングのようで、厚紙などの保護がない。注文していた品物の記憶がハード・カバーなので状態を気にしながら恐る恐る取り出す。ムム、グレーの地に金色でタイトルが刷られウイーン分離派の意匠に近い仕上がりではないか。本文の黒インクもなかなかよろしい、二つ折りにして糸掛かりしてある。マン・レイの最初の奥さんアドンラクロアの詩にマン・レイが挿絵を入れた詩画集「多様な文字の本」。1976年9月にイタリアで再版された一本で限定200部の内の129番。---もちろん20部しか刊行されなかった初版だったら、市民コレクターの手には入らないほどの恐ろしい価格になっていただろう(再版だからなんとかね)。---この200部本を最初に見たのは1980年代で、東京のZサロンだったけど前述したようにハード・カバーだった(恐らく製本したのだろう、あるいは、特装5部の一つだったのか)、これは、ちょっと魅力に欠けるのよ。次いで売り物を目録で発見したのは、ジュリエット未亡人コレクションのセールだった。それが、先日、ひょっこり現れたのよね。インターネットの調子が悪くてイライラしながら注文と精算のクリックを押したのだった(本当に嬉しい)。

 「自伝」でマン・レイは「わたしには絵のほかに別の計画もあった。彼女は散文の短いものとか詩を書いていたので、二人で本を作ったらどうだろうかと勧めてみた。限定版の、豪華版ポートフォリオで、わたしの絵と彼女の文章を収め、彼女の文章は、書き文字の訓練をしていたのでわたしが手書きで文字にする。リトグラフィーにも手慣れているからそれと同じ要領で良質の紙にやればよい。」(千葉成夫訳、美術公論社、1981年、53頁)と事情を紹介している。マン・レイのセルフ・ポートレイトの次の頁に収められた、彼女の詩「気まぐれ」の最終節で、ドンナは聡明なピエロに呼びかける

 もし私が絵描きなら、あなたにどれほどよく似合う衿でも / 細かく描こうとはしないだろう---私が描きたいのは / あなたの沈着さを支配している魂 / 芸術の霊感を与える叙情的なピエロよ--- / 私のはるか遠い夢にあらわれるもの / 私はこの言葉をあなたのためにだけ使おう、ひとつのしぐさをそえて。/ ピエロよ---あなたを愛している! (鈴木主税訳、「マン・レイ草思社、1993年、68頁)
 詩が読めればよいのだが、これはあきらめ、上質のイングリッシュ・ワットマン画用紙(再版もこれなのか判らない)を楽しみ、しばらく、ボーとしてしまった。古書店の手紙には1億冊以上の新刊、古書、稀覯本がサイトにあるので、是非、ご利用下さいとあった。また、こんな掘り出し物が見つかるかしら、コレクターの欲望は際限がないね、反省しなくちゃ