商店界とダイアローグなど

日本経済新聞の名物コーナー「私の履歴書」の今月は建築家の磯崎新氏。ル・フェルーのマン・レイ・アトリエに夫人の宮脇愛子さんと共に出入りしていた人なので、興味を持って毎朝楽しく読んでいる。5回目の今朝にはこんな記述があった。終戦後すぐの書籍が少ない時代の大分の出来事、「新刊本を扱うたった一軒の書店では立ち読みの常連になる」の後「新刊書が少なく、すぐに売り切れてしまう中で、何ヶ月もほこりをかぶっていたので、小遣いをためやっと買えた本がある。瀧口修造の「近代芸術」。欧州の新しい芸術であるシュルレアリスムダダイズムなどを論じたこの本は、私のそれまでの美術の見方やものの考え方を決定的に変えた。」書棚で過ごした本の時間を考える。わたしの読書傾向から古書店で捜すのはこうした、ほこりをかぶっていた一冊となる訳だが、うずもれた一冊、京都の詩人達の一冊と出会いたい。

古い友人が上洛するので、昼前に出掛ける。河原町をブラブラし、始めて三条京阪のBOOK・OFFで買い物、外村彰著「近江の詩人 井上多喜三郎」(サンライズ出版、2002刊)、200円とは有り難い。そして、勧業館最終日の古書市へ、しばらく、スカスカになった棚を覗き、先日、パスした幾冊かがあれば買おうかと思ったが、もちろん、再び手にする事はなかった。待ち合わせの友人はと云うと水明洞で高額の買い物、42,000円程の支払いとの話で驚いた。戦前の雑誌「商店界」が1冊1,300円で出ていたそうで、清水正巳への調査から入ったある学芸員の一言につられての購入らしい。すでに確保していた分と合わせると60冊近くになるとの話だが、若い女性につながったりする話題本には、弱いこと弱いこととあきれてしまった(笑)
 タクシーでイノダコーヒ本店に移動し、ガーデン席で友人持参の写真と珍しい資料を拝見する。A4プリントが入ったクリアファイル5冊に収められた女性達の素晴らしいポートレイトをじっくり観る。わたしの意見を聞きたいと上洛された訳で、素直な印象を伝えるが申し訳ない気持ちで一杯だ---重い写真をリックに詰め、わざわざ新幹線に乗って来られた友人の情熱は、どこから来るのだろうか。被写体の女性達との不思議な距離感は、打ち解けた表情、笑い顔の中に、驚きのシュチエーションを持っている。彼が行っている一連の写真は、個人の営為が万人のコミニケーションに繋がる希望のように思える。いつか、どこかで、これらの写真群に気付いた人は、なんて、人は素晴らしいのだと感じるだろう。その一端を、ブログで紹介したい気分である。


ダイアローグ 5号 寄稿山本悍右 「誰もいなくなった アガサよ そして 誰もいなくなった 風景のカタログ」

雨が降り出し、ちょっと寒い。噴水の水音と、若い緑の庭。珈琲のお代わりをお願いし2時間以上は話していたかな。友人から「ダイアローグ」と云う写真同人誌を見せてもらう。この雑誌は1969年11月に豊橋在住の写真家八木祥光を中心として発行されたもので、発行部数は500部と推測される。1975年9月発行の6号までの内、3、6号を除いて友人が保管している。この同人誌には山本悍右先生が寄稿されているので、以前から現物を確認したかった訳。掲載頁の写真をパチリ、面白い。先生はリトルマガジンがお好きなんだな。
 さて、5時過ぎになり楽旬万菜こしのへ場所を変え、飲み始めた。まず立山、次いで八海山、さらに〆張鶴(新潟)。あては、よこわ、蛍いかの辛子酢味噌かけ、春の山菜天ぷら、手羽先の七味焼、はもの柳川風鍋、そして鯛のあらだき。美味しく頂き、酔うほどにバカ話しとなる楽しい時間。出会った頃の18歳にもどったような気分だ。友人も酔っぱらい、お酒を地元の古都におとし、湯豆腐でしめ。その後、スターバックスに移り、酔いさましの珈琲を街路側の席で飲む。雨が強く降っている。