「野島康三 ある写真家が見た日本近代」展



8月23日が最終日となる野島康三展を観に、京都国立近代美術館に出掛けた。今日は午後2時から金子隆一氏(東京都写真美術館専門調査員)による講演会があるので、昼前に整理券を受け付けでもらい(6番だった)、枡富でざるそばを食した後、ゆっくり展示を拝見する。1930年のプロム・オイルプリントの「仏手柑」から始まる展示は、良いね。家族の物語風の「庭にて」もプロム・オイル、三枚組みで「光」が描かれている。会場を進むと野島の魅力、写真の魅力になるけど、存在感あふれる黒い「肖像写真」が素晴らしい。1930年代の日本人だけど、No.37,38の微笑む女性なんて、痺れるな。もっとも、当時のフランス風ピンナップに通じる写真の引用や、ウエストン、マン・レイなどのイメージを感じ(No.65は「願い」だし、No.149はメレット・オッペンハイムだな)、時代が進んでのグルーブリィや荒木なども連想した。海外の資料からの影響もあっただろうがピグメント印画が素晴らしい。そんな訳でゼラチン・シルバープリントは今ひとつと眼に映ってしまった。本好きは最後の部屋に置かれた「光画」(個人蔵)や「モダン・フォトグラフィー」(野島康三旧蔵)---マン・レイのページが展示してあったけど、持っているので安心。「カイエ・ダール」(野島康三旧蔵)などにうなってしまった。展示された書籍は欲しくなるのよね---報告すると「光画」のバックナンバー7-8冊を昔の名古屋時代に発見・購入したのだが、事情があって今は手許にない、残念である。(こんなに評価されるとは思っていなかった) 今回の展示は、会場構成にも工夫がみられ好印象だった。

 金子隆一氏の講演テーマは「野島康三と「光画」」。雑誌の現物三冊を持参され、野島が写真印刷物をオリジナル・プリントと考えた思いと時代背景・印刷の歴史についてお聴きした。「光画」創刊号に関連して、オリジナルとして展示でき写真年刊ともなる頁の仕掛け「裏白」と云うキー・ワードを知った。そして、欧州のフォト・グラビアと、日本のコロ・タイプとの違い、映像表現の深さについてのフォト・グラビア(インクが立っている)を日本に導入しようとした実験頁など、印刷の実例を示しての講演なので、興味深く楽しんだ。講演最後の時間も、多くの若い人が手をあげ、深く確信を付いた質問が続く、京都の熱気だろう。世界に知られる若い写真作家が生まれている街だからな。

 さらに、常設展示室で袋一平(1897-1971)コレクションによる、無声映画時代ソビエト映画ポスター、51点の展示を観る。これも素晴らしい。