マルセル・デュシャン書簡集


11月1日発売予定のSpin06「宇崎純一の優しき世界」(みずのわ出版)を確認したくて、ジュンク堂BAL店に行くも見付からない。それで、写真関係の棚を見渡し、金子隆一氏の「日本写真集史1956-1986」(有限会社ゴリーガブックス)を手に取るが、裁ち落とし不良で断念、見本版以外はパッキンされていて躊躇する---大阪に出たときカロさんで求めよう。
 それから美術書の棚に回って、見ているとシンプルなボール・ケースに「MD」マークが面だしされている。フランシス・M・ナウマンとエクトール・オバルクが組んでが2000年に刊行したAffectionately, Marcel. The Selected Correspondence of Marcel Duchamp.の日本語版が白水社から出ているではないか。邦題「マルセル・デュシャン書簡集」(定価: 本体7,400円+税)急いでケースから抜き出し、奥付を読むと10月20日印刷、11月10日発行。訳者の北山研二は1949年生まれとある。原書が出たとき、総ての書簡を載せたかったとナウマン氏が言っていたのを思い出した。マン・レイへの手紙は拾い読みしていたけど、語学の出来ない者としては、285通の手紙を読めるのは有り難い。さっそく買い求め、街を歩く。こんな時に読むべき喫茶店はどこだろうか。
 それで、寺町を三条から上がって、ヤマモトの横を東に曲がり、昔、京都の詩人たちが集まっていた「ふじ」に入る。---今はお嬢さんの代になって「白い花」と名前を変えている。美味しい珈琲を飲みつつ、マン・レイへ宛てたデュシャンからの手紙29通を読む。本書ではマン・レイ宛てが一番、多いのではないだろうか。伝記的事柄に相応させながら、手紙を読む気分は、マン・レイになってしまったようだ。



最初に収録されているのは1922年でニューヨークから出されもの。「手紙と写真をありがとう ぼくの代わりにキキにキスしてくれ きみがけっこう楽しんでいることは、とりわけきみが画をやめたことはとてもうれしい」(112頁)

訳者の北山研二はあとがきで次のように書いている(480頁)。

原書の刊行直後に訳さないかという話が白水社から舞い込んだときには、千載一遇とばかりに飛びついた。しかし、翻訳作業はいままでになく時間がかかり、思うようには進まなかった。手紙の細部でよく分からないことが少なくなかったからだ。手紙の細部の意味は元々当事者にしか分からないものだろうから、双方の手紙をよむことが最善であろうが、そうもいかなかった(ナウマンの「序文」によれば、デュシヤンは受け取った手紙は返事を書くと捨てていたから、これはあり得ない話なのだ)。