樹皮写真家のこと


 名古屋の写真家が上洛。いつものイノダコーヒ本店で新作を拝見する。最初の一冊は、表情豊な女性がパラパラ絵風に動いて眼の前にいるような錯覚を起こす、女性の姿勢、座っているが為に表情に変化が現れるのだろうな。続いての一冊は「詩」を理解する知的な眼差しの女性のシリーズ。
 イノダコーヒ本店一階の窓側中央の席でゆっくりと写真ファイルを捲る。近くのテーブルの客が退場する7時を過ぎる時間帯のまどろみ方がなんともステキな空間だ。アラビアの真珠の効果だけではないだろうが、名古屋の写真家の表情が穏やかに思える。彼の中の何かが変わってきたのだろうか---朝の7時から京都を隈無く歩いて、人と話したり写真を撮ったりする情熱から気負いが無くなり、自然になってきた証拠だろうか。
 名うての女性写真家は、三冊目の新作を取り出してニコリと笑った---開くと樹皮の写真で、愛知県東部の町で不思議な樹を見付けたと云う。傾斜地に立つ樹に対し身体の平衡を保って撮るのだと云う。彼の撮る樹皮は女性の肌のようで、ちょっと異質だ。女性写真家がものにした肖像写真が、人の肌を俯瞰しているような気分。観ていると、彼と出会った頃に見せられた写真(当時は白黒)と同じだと思った。原点回帰をはたしたからこそ、彼の表情が穏やかになったのだろうか。

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 写真合評の後は、これもいつもだが、「洛旬万菜こしの」で一杯。お品書きを見ると春の山菜天ぷらが美味しそう、気さくな女将が、それぞれを説明してくれた。京都の御池通の桜も陽の当たる側では咲き始めたとか、やっと春が来てくれたのだな。お造り盛り合わせ、地鶏の天塩焼き、穴子の天ぷらなどなどに合わせ佐々木酒造の「古都」をいただく。話しも弾む楽しい時間となった、そんな訳で、地下鉄四条駅に送りながら太郎屋をのぞいて、細江英公が撮ったアベドン風「土方巽」の肖像ポスターをさかなに、締めのビール。友人は名古屋に戻っていった。

筍、こごみ、ふきのとう、うるい、たらの芽、菜の花、はじかみ

土方巽 at 太郎屋