訃報・加藤郁乎


加藤郁乎から筆者宛の葉書。消印は東京・荏原局、1976.6.15 14.8 × 10 cm.

今朝の読売新聞で俳人・加藤郁乎の訃報を知った。(新聞によると、16日午後1時19分、心不全により死去、喪主は妻・道江さん。加藤郁乎(1929生)は、俳人・加藤紫舟を父に持ち、早大卒業後、日本テレビに勤務しながら句作。西欧的な詩風を持ち込んだ前衛的な俳句で知られた一方で、江戸俳諧の考証・研究にも取り組んだ。) 昨夜、古いファイルを整理していて郁乎さんから頂いた葉書を手にして懐かしく読んだところだったので驚いた。享年83歳とは思っていたよりずいぶんお若い印象。謹んで冥福をお祈りしたい。
 わたしは二十歳の頃、稲垣足穂に惹かれていて、その繋がりで足穂の生態を開陳した抱腹絶倒の書「後方見聞録」の著者に出会った。俳句についての素養がないので、江戸俳諧の妙についてはお手上げだが、酒飲みのバカ話しの連続にヒネリが散りばめられて、すぐにファンとなった。野中ユリの挿画が素晴らしい「形而情学」はもちろん、「眺望論」「終末領」「ニルヴァギナ」 「かれ発見せり 」「エトセトラ」「夢一筋」「旗の台管見」「佳気颪」などなどで、書店で見つければ必ず買い求め楽しんだ。中でも前述の「後方見聞録」を刊出されたコーベブックスの書物に一番惹かれたと思う。郁乎さんが「後方見聞録」で披露されたのは交遊関係が詩であるような酒の飲み方で、さっそくマネをしてみたが、こちらには胆力はもちろん、知力も財力も欠けると云うナイナイ尽くしで、音を上げてしまった。
 その頃、四条河原町上ルにあった京都書院に加藤郁乎の色紙「情事サンドは川端柳 この水を見よ」が掛けられていた。ベタベタと書かれた文字の勢いがなんとも素敵で買い求め、自宅のトイレに掛けていた。なんとも落ち着く色紙だった。