足立巻一著 「戦死ヤアワレ」


「無名兵士の記録 戦死ヤアワレ」足立巻一著 新潮社 1982年刊
読書傾向が変わって、ここ数年は「自伝」や「評伝」が中心となった。「写真集」は手に取ってパラパラと楽しむが「美術評論」や「哲学」からは遠ざかった。この分野は、人生や社会に有効だと思えないのだ(わたしの場合)。小説は20歳の頃から読めなくなったが、足立巻一の一連の「自伝」的書物の世界には惹かれてしまう。琴線に触れて泣いてしまうのは、氏の生い立ちや人生に重なる部分を感じるからだろう。もちろん、わたしに戦争体験はないけど、小学生の頃、叔父さんから南方戦線の話しなど聞いた。二度目の徴収となった中国戦線については、悲惨な部分があるのか叔父さんは語らない。軍属だった父親は、何も言わない。しかし、肉親の表情や声の調子から戦争のいろいろな部分を身近に感じたと思う。叔父さんや父親の語らなかった「戦死ヤアワレ」の部分が、足立巻一の体験を通じて、耳にまとわりつき涙が出てしまうのだ。足立の仕事の良いところは、執筆の時点と過去が繋がり、今を生きる希望を見出そうとする部分にある。