「ナリユキ」品について


ある方から「七夕」の目録を頂いたので、急いで「美術・工芸・写真」欄の後半頁を確認した。----「七夕」と云うのは東京の古書業者の集まりである明治古典会が主催する七夕古書大入札会の事、毎年7月7日の前後に開かれ今年で48回目。入札事態は業者に委ねるのだが事前に一般下見会が二日間開かれる。これは現物を手に勉強の出来る眼福な機会。優品が集まる日本一の古書市である。
 さて、今年の目録に掲載されたマン・レイは922番の「大人のアルファベット」だけだったのでほっとした(架蔵しているからです)。この二年間、旧知の故佐々木桔梗旧蔵品が現れ、上京しての一喜一憂だったものだから、今年は心を落ち着かせてゆっくり目録をパラパラした。それぞれの図版下に入札最低価格が万円単位で表記されているのだが、ことしは「ナリユキ」としているものが、いくつかあった。1万円以上なら幾らでもよいのかしら、安く買えるかしら、などと思って頁をパラパラ。それにしても写真関係に「ナリユキ」が多い。写真集バブルは終わったなと思って森山大道の『にっぽん劇場写真帖』『写真よさようなら』『狩人』や、石内都の『絶叫、横須賀ストーリー』『アパートメント』などを見た。
 後で知ったのだが、「ナリユキ」と表示された品物は、オークション形式の「競り」にかけられる商品との事で、最低価格は3万円とか。でも考えてしまう、オークションとするなら最初から一般に開放してやるべきで、業者によるオークションなら価格の読み(入り札や留め札など)といった、経験や意気込みを蔑ろに「お金」だけで決着させようといったやり方ではないか、地方の業者も入札だけとはいかないし、東京勢の思惑、世界標準に寄り添う弊害ではないかと思った。長い付き合いによって得られる信頼関係があってこその収集が、その場の金持ちだけに牛耳られるなんて、もうお終いだと、悲観しながら頁を閉じた。