マルセル・デュシャンを立体的に視る--2

四次元の読書-1『マルセル・デュシャンを立体的に視る』7月18日-10月15日 at 国立国際美術館
『グリーン・ボックス』の怪

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国立国際美術館 地下1階 情報コーナー

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予測していたとはいえ、図書室のテーブルに『グリーン・ボックス』の紙片が散乱(無造作に置かれて?)するさまは、感動ものだった。「え!  いいの」---オリジナルを手にしたのは、ずいぶん昔で、もちろん白手袋なしの素手での接触---、難解なフランス語が判るはずもないが、思考の痕跡探しに参加する感覚を味わうことができた。京都国立近代美術館でもガラスケース越しだったから、適当に選んで、眼を近づけたり、光にかざしたりして、「オリジナル」に接近してみた。記憶では浜田明さんが訳したミッシェル・サヌイユ編の『表象の美学』(牧神社、1977年)の中に、一章があてられていたはずで、手にする「思考の言葉」と「大ガラス」のどの部分、あるいは、どの動きとつながるか、「無名の読者」も接近を余儀なくされた。マン・レイが撮った『埃の飼育』もあるし、そういえば、昔、オリジナルを手にした時、パリでそれを仕入れた古書店の主人が94枚を数えてから支払ったと言っていたのを思い出した。広げていると、なくなっちゃうぞ! おや、裏面に日本語の解説、美術館のエンボス、切り抜いた紙の形に縮れが発生している。

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書棚上段の横長白パネル上をプロジェクターが動きながら『お前は私を...』のイメージを描いていく。この位置からすると、情報コーナー全体がキャサリン・ドライヤー女史の書斎を模したものだと判った。正面には原寸大のフィラデルフィアで展示されている『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』のシールが貼られている。情報コーナーの仕掛けが面白くて、紙片を手に持ったまま、しばらく見廻してしまった。---部屋を『グリーン・ボックス』の内部と考えるのも可能ですね。

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アップした写真は反転させています。

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書棚等に置かれた物品の関連資料一覧(海外35点、国内30点、フィルム1編)に『グリーン・ボックス』の表記がないので、これはなんだろうと思いつつ、後日、確認すると、手にしていた紙片は、同館所蔵のオリジナルをコピーし、担当者が基の形状で仕上げたとの事。資料一覧に載っていないのは、同館での分類が「版画」とされている為との事であった。
 オリジナルがデジタル化される21世紀で、デュシャンを「読む」行為は、パソコンのモニターと紙モノが同列で、あやふやなものとして現れる。しかたがないとはいえ、いや、それだからこそ「このような類いの作品資料を一人でも多くの人に愉しんでいただきたいと考えて、当イベントは始まる。」と云う同館学芸課長中井康之氏の思いを、素直に受け入れる事にしたい。