マルセル・デュシャンを立体的に視る--3

四次元の読書-1『マルセル・デュシャンを立体的に視る』7月18日-10月15日 at 国立国際美術館
『ヴァリーズ』ならアマゾンで売っています。

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Rotorelief 1935

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一昨日の続きになってしまう「最後の世代」の思い出話だけど、デュシャンのロトレリーフの現物(シュワルツ版)を触らせてもらったのは名古屋にあった画廊で、1979年頃だったと記憶する。それで、久しぶりに円盤を選び、回転台に乗せてみた。視覚効果が上掲のスナップ写真では再現できないけど、ミノトール誌の表紙にも使われたイメージのシートに思い入れが入ってしまった。また、ステレオビューワーを覗いて「ピラミッド型の多面体」が飛び出す様子を確認すると、こちらのイメージは、野中ユリさんのある作品に繋がるから、作者も覗いていたのかしらと思った。「作品を体験する鑑賞者」(わたしの場合)が、眼の前の「実物」ではなく、過去の側に思考のベクトルが向かうのは、どうしてだろう? 作品を両者によって完成させるのではなく、デュシャンを基準に、その引力圏から逃れられない、不思議な呪縛霊の物語と、ひとまず報告しておこう。

Handmade Stereopticon Slide 1918-19

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国立国際美術館の情報コーナーは、楽しい小物がいっぱい詰まったテーマパークとなっている。きっと全国から「デュシャンピアン」が集まってきているのだろうな。企画・編集の一員である藤本由紀夫氏の作品が多数仕掛けられていて、立体的な追体験をさせていただいた。三次元の影と称される二次元上の『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』に、もし内部があるとしたら、このコーナーのようになっているのだろうか。---と書いた後、藤本氏のテキストに「いわばこの部屋には、デュシャンの頭の中が映し出されているのかもしれない」とあるのに気が付いた。もっとも「この部屋」と云うのは、乱雑な彼の実際の部屋のことなんだけど。

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シール越しに内部を

藤本氏の作品(?)

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Mathieu Mercier ed. Marcel Duchamp: Boîte-en-valise. Walther Koning 2015
さて、今回の『マルセル・デュシャンを立体的に視る』の目玉の一つが、マン・レイも強力しているポータブル美術館の『トランクの箱』(通称ヴァリーズ)。ガラス越しでしか体験出来なかったものが、一時とはいえ白手袋越しに自分の物になってくれた。でも、どうも違うわけです---ビスが印刷されているではありませんか。---よくよく確認すると2015年にWalther Koningが制作したレプリカ版、今日、米国のアマゾンサイトを覗いたら970ドルで出品されていました。それはさておき、もともとの300程度の版もレプリカである訳で、経年変化を考慮すれば、再制作を続け、あらたな読者(?)の基に送り届け、解釈と楽しみを広げることに価値があると納得しよう。としても、わたしのようなコレクターの手と眼、心と財布は、富山県美術館が収蔵しているはずの限定版『偽りの風景』にしか身悶えしないと告白しておきたい。