更に深く、森の奥へ。


Shinya Ichikawa exhibition at galleryMain December 13-24, 2017

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ギャラリーメインの会場が不思議な闇に包まれている。夜の公園に生息するデフォルメされた河馬や馬や麒麟や羊や亀などが、知っている姿から解離し、足が固定されて写真の中にしまわれている。光に演出された滑り台やらシーソーやらブランコたちが、浮かび上がって、動物園のゲージや遊具になって、佇んでいる。「夢」の世界のようでありながら、街の明かりが背後に現れて現実の側に、引き戻されたりしてしまう。物語ではなく、空間を楽しむように、仕掛けられた、写真の展覧会。京都市在住で世界的に活躍する市川信也氏の個展は、氏の精神世界を垣間見るような、楽しみであるよりも、写真での新しい表現。写真集のページ上で展開するイメージや、オリジナル・プリントの視覚性ではなく、インスタレーションとも離れた、空間の不思議に支配されている。

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「児童公園に着いたのは七時七分前だった。あたりは既に暗く、水銀灯がむらのない人口の光を狭い公園の隅々に注いでいた。」(『IQ84』)

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 同氏が今回発表されたシリーズは、「2014」と表記して「ニイ・オー・イチ・ヨン」と読むそうで、村上春樹の小説『IQ84』に触発されたものだと云う。会場でお聞きすると氏は『群像』1979年6月号に掲載された『風の歌を聴け』の頃から始まる、熱心な村上作品の読者で、『IQ84』の 「BOOK 3」(新潮社、2010年4月16日刊)後半に書かれている「天吾が青豆を人気のない夜の公園の滑り台の上で待つシーン」(市川)から、「村上ワールドは大変複雑で、写真でそれを表現するのは至難の技と思われるが、これらの公園の写真の現実(reality)の中に、非現実(unreality)な何かを見出していただければと思う。」と---

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 画廊の閉廊時間は19:30。一階の「CAFE すずなり」で森岡パパと三人で「身近な写真家で村上作品を読む人は少ないようだけど、ハルキストたちは、展覧会にどんな反応をするのだろう」と世間話。「でも、ハルキストの皆さんに、展覧会をお知らせするチャネルを持っていないな--」。展覧会は二週間、夜のシーンを受容するのは難しい。尚、16日(土)18:00〜19:00に、市川氏とセイリー育緒氏との対談があり、その後、パーティーの予定との事、楽しみですね。