蜘蛛出版九十九冊航海記

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君本昌久『蜘蛛出版九十九冊航海記』蜘蛛出版社 1990年 20.9×13cm 116 pp

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銀紙書房の社主として、詩人で出版、市民運動へと邁進した君本昌久の軌跡を手にすることは、回り道し遠ざけた「時代」を思い出させ、辛い気分にさせられる。一人出版でしか対応できない我が了見の狭さを振り返り、君本が刊行した99冊の詩集、歌集、句集、評論など、いろいろな「詩人」たちの人生を想像することは、改めて表現する、いたたまれさを学ぶ読書ともなった。

 

 冒頭で、君本は「わたしひとりでやってきた蜘蛛出版の本は、その殆どが自費出版による個人詩集だった。だから、まずはカネの心配をしないでもやれた。編集と校正、装丁とブックデザインに時間と神経を使えばコトはなっていけた」(13頁)と書いている。もちろん、後段で「それは自費出版であったとしても、やっぱりカネのことはついてまわるハナシであったから」と打ち明けている。

 

 小島輝正の『アラゴンシュルレアリスト』刊行や、季村敏夫の第2詩集『わが標べなき北方に』などの刊行経緯が興味深い。また、1980年代になって「コンピューター、ワードプロセッサ、写植タイプ方式」の登場により活版印刷が終焉する様子など、同時代人としてリアリテイの中にいるの感。神戸の夜にも惹かれてしまった。