アラゴン・シュルレアリスト

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小島輝正『アラゴンシュルレアリスト』蜘蛛出版社 1974年 18.8 ×13 cm 360pp.

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君本昌久の『蜘蛛出版九十九冊航海記』によると── 37歳から書き始められたアラゴンが16年にわたり、「それを本にするための話がまとまり、70年の春、東京の某出版社と契約することになり、800枚になっていた原稿に50枚書き加えて送稿していた。ところが、その出版社がつぶれて実現しなかった」「それから3年後、さらに旧稿にかなりの補正修正を加えた原稿に仕上げ、また再び、別の出版社と話が成立し、出版が進行中、その先行きが危ぶまれてきた。350頁になる本のなかで200頁のゲラ刷りが出たままストップして、宙ぶらりんになって仕舞った」(38頁) この話を聞いた君本が企画出版として世に出すことになる、1974年4月だった。

 

 出版に至るなかで、中断、補足修正、加筆で暗中模索したのは、「アラゴンを解く重要文献資料にめぐりあった」──それで、「私が16年前に抱いた初志を、年月のうちに萎えさせた理由の一つはここにある。自分の役割をすませたという不遜な諦念がそこにある」と小島輝正は語ったようだ。

 

 そして、君本昌久は「小島輝正は死に襲われる寸前までアラゴンの文学する初心と通底し、内縁関係を維持してきたことは、昭和以後の日本のシュルレアリスム受容の歴史において稀有なことである」と回想する。そして「小島輝正もいない寂しい時代になってしまった」と----  尚、本書の題字・装幀は君本昌久による。