南仏紀行-23 モンパルナス墓地

2006年3月10日(金)

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世界中からやってくるマン・レイのファンがお墓に手を合わせる時、ジュリエットが一緒に現れる。彼女の筆記体で『平面卵』の表面に刻まれたマン・レイの墓碑銘は「呑気にしているけれど、無関心ではいられない」、名前と生没年表記の下には「ラブ・ジュリエット」とある。一体化したジュリエットの墓石には二人が並んで撮った平凡な写真。「この次も二人で」と書いてあるのが黒い文字なので目立つ。年齢差は二一年、気むずかしい中年男と若い素直な娘が 写っている。くるくると回って立っていた円盤が回転を終えた時、彼女が支えたのだろうか、夫の死後、十五年にわたって夫の芸術的名声を支えた。評伝によれば「墓石を建てる事はマン・レイの意志に反するのでは」と悩んだジュリエット。偉ぶらずあっけらかんとした様子のマン・レイに似合うとジュリエットは思ったのかもしれない。二人の写真は誰が撮ったのか、二人が出会ったカリフォルニア時代、娘のようなジュリエットとお父さんのカップル。写真の二人が示しているのは、マン・レイの黒子に徹していたジュリエットが最後には前に出た事。そして、二〇〇六年の今朝。(123頁)

 

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暗い空から幾筋もの雨。ゆっくりと感傷に浸る訳にもいかないが、持参した拙箸『マン・レイになってしまった人』(限定番号十八番)を供え合掌する。(124頁)

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 昔、ツァイト・フォト・サロンの石原悦郎が「門番が観光客が持ち込むカメラを没収するから、判らないようにすり抜けて行くんだ」と言っていたのを思い出して、呼び止められないよう、左側の建物には視線を向けないようにして、さっと通り抜ける。(122頁)