美学会 at 東京藝術大学


田村書店の朝は早い

Pierre Bourgeade New York Party nrf 1969 18×11.8cm
7時26分京都発ののぞみ106号で東京へ。車中で小倉健太郎氏の『インデックスとしての機能を喪失する写真1.0: C.S.パースに従って』(「成城美学美術史」第19号)を読む。早い時間だったけど神田村を源喜堂から探索し、田村書店で友人のTさんと待ち合わせ。2階でピエール・ブルジャッドの『ニューヨーク・パーティ』を購入。ブルジャッドはマン・レイとの対話本の著者で、以前から探していたもの。挿絵はアート紙に刷られた簡単なものだが、マン・レイとの繋がりから興味深い。小宮山書店、ボヘミアンギルドなどの棚を物色してみたが、洋書類の値崩れには驚くばかり、買いやすいとはいえ、需要がないのも辛い気分。
 昼前、根津へ移動して柳正彦さんの画廊・書店、STORE FRONTを訪問。氏の扱う美術書のラインナップに同世代人としての共感を覚える。銀紙書房が刊行した本もあって懐かしい気分。長くクリストと仕事をしてこられた氏の手許には著名な現代美術作家のサイン入りエフェメラが沢山保管されていて、涎状態になった。「マン・レイはないかなー」と氏にお願い、果報は寝て待ての心境です。

STORE FRONT

元木みゆき・桐生眞輔 写真展「かたるからだ」10月14日迄

石原輝雄編著『封印された指先』(銀紙書房、1993年)

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今回の東京行きは、マン・レイ研究の俊英・木水千里さんが美学会全国大会で発表をされるので、聴講させていただくのが目的。会場は東京藝術大学音楽学部で、Tさんが2時から行われる岩見亮さん(慶應義塾大学大学院)の『マルセル・デュシャンにおける「レディ・メイド」の生成』から参加したいと云うので、急いでの会場入りだった(美学会の会員以外でも参加料1,000円を払えば聴講できる仕組み---質問は出来ません。会員の参加費は2,000円)
 会場への案内が判りにくかったので、ちょっと迷う(多くの参加者が迷われていた)が、そのおかげで研究室や細かく仕切られたレッスン室などを実見。廊下にメトロノームが置かれていたのも、なるほどと思う光景だった。

東京藝術大学 上野キャンパス 音楽学

5-401教室からの眺め

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学会研究発表への参加は初めてだったので、経過時間を知らせるベルや、引用句を伝える言葉使いなどが新鮮だった。ただ、学問なので話しとして面白いかと問われたら、難しいと思う。用意された「原稿を読む」訳で、聞き取りメモをするスピードより早いので難しく、また、すべてをレジメに書かれた場合もあって、興味は質疑応答に向かうのだが、これも発表者と質問者の齟齬が顕著な気がした。
 分科会Cの「現代美術」は司会・進行が外山紀久子氏(埼玉大学)で、発表は前述の岩見さんの他に筧菜奈子さん(京都大学)の『ジャクソン・ポロックにおける書芸術---ブラツク・ペインティング成立に関する一考査』と長島彩音さん(神奈川県立近代美術館)の『ドロテア・タニングの造形におけるマチエールの探求と第二次世界大戦以降のシュルレアリスム』の三本だった。

5-401教室

木水さんの発表は『レイヨグラフ再考---20・30年代の同時代人による受容との比較を中心に』と題したもので、朝方、小倉健太郎氏のテキストで予習したおかげで「指標論」をめぐる問題系にもついていけた(本当かしら)。内容については彼女自身の言葉や、いずれ纏められるであろうテキストに則って紹介しなければならないが、発表での「言葉」を正確にメモ出来た訳ではないし、文脈からある部分だけを取り出すのはいけないので---さて困りました。会場で配布さにたレジメには「全体の構想」として次ぎの2点があげられている。
(1) フランス、アメリカの両国をまたぎ、そして多数のジャンルをまたぎ活躍したマン・レイは部分的に解釈されてきた。
(2) シュルレアリストという形容を一旦取り払い、時代の文脈に返すことによって、今まで見過ごされがちであった彼の芸術の問い直しを試みる。
 与えられた短い時間の中で、問題の設定、論の展開、結びから今後の研究の方向性に対する発言と、論旨にブレがなく、「うんうん、そうそう」と相づちの連続で聴講させていただいた。「過剰な類似」がシュルレアリスムに繋がる体験を含むものであったり、マン・レイによる「表現方法の自由を表現方法を使って現した」といった指摘などに、こちら側の血が騒ぐのだった。レイヨグラフに対するブルトンツァラの相違なども興味深いものだった。しかし、発表後に「過剰な類似」への質問がみられたりして、写真論からの立場と、シュルレアリスムまでも含んだ表現の問題意識との間にズレもあるのだと思った。「ポケットの中のしわくちゃな紙」はよろしいな。
 彼女の発表は分科会Bの「写真の美学」のパートで司会・進行は前川修氏(神戸大学)。次いで山本佐恵さん(日本大学)の『名取洋之助のフォト・ジャーナリズム論---岩波写真文庫(1951-58)を中心に』が報告され、終了は5時45分となった。外に出ると気持ちの良い風が吹いている。日が暮れた上野公園の森(?)を歩くのは神秘的で楽しく、寛永寺の鐘の音が聞こえてきた。

東京藝術大学 上野キャンパス 音楽学

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Le quattro stagioni
さて、友人のTさんが「マン・レイ友の会」の名前で予約してくれたイタリアンのレクアトロスタジオーニで、参加された研究者の方々と懇談。シュルレアリスムに関心を持つ若い方々(内、マン・レイ研究者は3名)なので沢山の刺激をいただいた。仏文の側では研究書が相次いで出され活況かと思っていたが、美学側では「シュルレアリスムは最近人気がないから」との発言があったりして、ウムム。部分的にしか研究されてこなかったマン・レイが、20世紀芸術の先達として包括的に取りあげられる日が近いことを、わたしもKさんと共に信じている。
 スパークリングで乾杯し、白ワイン、赤ワインと飲み過ぎてしまいました。話が楽しいと、ダメですね止まりません。最終の新幹線に間に合うよう東京駅へ移動。有意義な一日だった。

お顔は自主規制しております。

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京都駅11時32分着ののぞみ265号