読書『パディントン発4時50分』

18.3×10.7cm 264pp. 05- パディントン発4時50分 アガサ・クリスティー(大門一男訳) No.595 早川書房 1960年12月15日発行

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「セドリックはオールド・ミスという言葉を悪い意味で使つたんではないんです、マーブルさん」
「まあ、私、不服を申したわけではありませんわ」とミス・マーブルは言つた。「ただお兄さん仰言つたことが当たつているかどうかと思つただけですよ。私はミス・クラッケンソープがオールド・ミスだとは言えませんね。あの方は遅く結婚するタイプの方で──しかもそれに成功する、と私は思います」
ここに住んでいたんでは、ちょっと無理でしょうな」と、セドリックが言った。「結婚相手が見つからんでしょうからね」
 ミス・マーブルの瞬きはさっはきより激しくなつた。
「牧師さんはどこにでもいます── お医者さんもおりますわ

 おだやかな、そしていたずらつぽい眼差で、彼女は一人一人を見廻した。 p.132

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「あなたは日ごろお金なんか軽蔑していらつしやるのかと思つてましたわ」とルーシーは言つた。
「もちろん、金がないときは軽蔑していましたよ」と、セドリックは言つた。「それしか格好のつけようがないですからね。あなたはなんて可愛いんだろう、ルーシー、それともぼくが永らく美人にお目にかかつていないからそう見えるのかな?」 p.213

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 彼女は言い添えた。「彼がラザフォード邸をすっかり気に入つたのは、子供のころ住んでいた、広い、とりとめのないヴィクリア朝風の家を思い出させるからというのです」
「なるほど」と、ミス・マーブルは考え込みながら言つた。「なるほどね……」
 それから彼女は横目でちらりとルーシーを見て、挑むような口調で言つ
た。「でも、それがすべてではないでしょうね、どう? まだ他に何かありますよ」
「ええ、他にもあります。つい二日ほど前までは私にも分からなかつたことが。ブライアンは実際あの汽車に乗れば乗れたのです」
パディントン発の四時三十三分に?」
「そうです。エマが十二月二十日の自分の行動を説明させられると思つて、とても詳しく一切を話しました──午前中に委員会の集まりがあり、午後は買物に行き、『グリーン・シャムロック』でお茶を飲み、それからブライアンを迎えに駅へ行ったと彼女は言いました。彼女が迎えに行つた汽車はパディントン発の四時五十分でしたが、彼はもう一つ早い汽車で来て、後の汽車で着いたようなふりをすることだって出来たのです。彼は何気ない口調で私に、車をぶつつけて修理中なので、汽車で来なければならなかつた、と言つていました──とても退屈で、汽車は嫌いだ、とも言いました。その態度はごく自然な感じでしたが……あれはほんとに何でもないのかもしれません……でもとにかく、あの人が汽車で来てくれなければよかつたと私は思います」 p.241-215

 


 先日、名古屋・上前津古書店で、ブログに連載した「英国ミステリー」早川ポケミスの該当号を、見つけた。小生ブログでのイメージは →