ハノーヴァー・ギャラリー

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Invitation Card 16.5×10.2cm. The Exhibition of Man Ray "Paintings and Objets de mon Affection" at Hanover Gallery, LONDON、5 June until 4 July 1969

To M. Robert Valancay, 34 Rue Lucien Jeanin, La Garenne-Volombes, SEINE, France. Postmark dated: 30 MAY 1969 in LONDON.
このブログを楽しみにしてくれている古い友人に「このところ飲み屋さんの話題が多いね」と言われた。大好きなので「ドンドン報告しますよ」と言いたいところだけど、マン・レイの話題が少ないなと反省もした。諸般の事情(もちろんサラリーマン・コレクターの厳しさ判りますよね)から新収集品を紹介といった訳にはいかないので、手許のエフェメラを基に1960年代に倫敦でマン・レイ展を企画・開催したエリカ・ブラウゼンについて書いてみたい。というのも1980年代後半から1990年代に倫敦を舞台に起こった美術品の詐欺事件を扱った「偽りの来歴---20世紀最大の絵画詐欺事件」(レニー・ソールズベリー/アリー・スジョ著、中山ゆかり訳。白水社、2011年9月刊、定価本体2600円)と題した本で言及された、詐欺師のジョン・ドゥリューがジャコメッティの油彩を忍び込ませようとしたアーカイヴ資料が、ICAに保管されていたハノーヴァー・ギャラリーの創始者エリカ・ブラウゼンの元帳だった為、文中に彼女の事がいろいろと出て来たからである。1969年6月にマン・レイはハノーヴァー・ギャラリーで展覧会を開催しているのだが、この時のエフェメラについてはアルミ版表紙のカタログが知られる。手許に数冊保管しているけど、今回は案内状の方を画像で紹介したい(これが好きなんですよ)。5月末に仏蘭西へ送られた宛先も興味深い。
 前述の書物によると、ハノーヴァー・ギャラリーの創始者エリカ・ブラウゼンは「1930年代にドイツからパリに亡命し、画家や作家が集まるバーを経営し、スペイン内戦時にはアメリカ海軍の知人を介して、ユダヤ人や社会主義の友人たちをヨーロッパから逃がすことに協力した。彼女自身も第二次世界大戦が始まると釣り船でフランスを脱出し、文無しでロンドンに到着した。そして、小さな展覧会を企画し始めたのである。」(113頁) レズビアンであることを隠さなかった人で、1949年に開廊した画廊でフランシス・ベーコンルシアン・フロイドといった型破りのアーティストたちのために繰り返し危険な賭を冒した。」画廊は1973年に破産してしまったが、「ブラウゼンは几帳面に記録をとり、すべての売買や借用、依託の記録を元帳につけていた。その記録が今はテート・アーカイヴに保管されている。」(113頁)と云う。詐欺師のジョン・ドウリューは「ロンドンのハノーヴァー・ギャラリーとICAとの強力関係」調査という題目でアーカイヴにもぐりこんだようである。

「偽りの来歴---20世紀最大の絵画詐欺事件」の文中では、美術館の役割---「すべての重要な美術作品について、それが生み出されたときから現在の所蔵家の手に渡ったときまでの所有権移転の連鎖の記録を、とぎれることなく蓄積することである」(13頁) 若い画家の戦略---「成功の鍵は作品そのものの質にだけにあるのではなく、それをどう<ブランド化>するか、すなわち商品とその実際の価格の関連性をいかに強く世間に定着させるかにあるということだ。」(32頁) 画廊のリスクに対する見返り---「取扱作家から販売依託を受けた際の手数料で、販売価格の三分の一から三分の二が画廊に入ることになっている。」(43頁)と言及されている。その他にも気になる部分があったので、以下に転記しておきたい。

「ゴシップはアートビジネスの重要な要素だ。(略)オークションであっても、そして経験をつんだ競り手であっても、作品がいついくらで売れたかを常に正確に把握することはできない。」(44頁)

「作品の名声は、作品の質だけに基づくのではなく、その血統によっても決まってくる。以前の持ち主の名声が高ければ高いほど、あるいは悪名が高ければ高いほど、絵画の価格も上がるのだ。」(56頁)

「テートは、アーカイヴの利用者を学者とシリアスな研究者だけに限ることに固守していた。」(77頁)

「研究者たちのなかには、自分でも何だかわからない資料を釣り上げようとアーカイヴにやって来る者もいて、手間がかかるものなのだが」(117頁)

カタログレゾネの仕事をしている研究者は皆そうだが、パーマーも、自身の所蔵品がカタログレゾネに入れてもらえるかどうかの可能性を思いめぐらしている所蔵家や画商との情報交換には用心深かった。最終的にカタログレゾネに含まれるか否かによって、自身の財産が失われるか、逆に価値が増すかの大きな違いがあるからだ。」(137頁)

「贋作つくりは美術そのものと同じように古いが、特にこの詐欺の天才ぶりは、絵筆による贋作技術らみにあるのではなかった。この詐欺は、来歴の果たす役割を崩壊させ、美術品の真筆性を判断するにあたってコレクターや学芸員たちが依拠する美術システムそのものを支配する複雑な陰謀だった。」(217-218頁)

 マン・レイの展覧会資料収集をライフ・ワークとしているわたしには、考えさせられる事柄が多い書物だった。気楽に集め、ファイルに放り込んでおくやり方は、いけないと思う。そろそろ整理をしなければならない時期なんだ。