読書『複数の時計』


18.3×10.6cm 304pp. 18- 複数の時計 アガサ・クリスティー(橋本福夫訳) No.905 早川書房 1965年9月25日発行

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 床に大の字に横たわっている男がいた。眼は半ば開いていたが、うつろだった。濃いグレイの服の胸にしめりをおびた黒ずんだしみがあった。シェイラは機械的にかがみこんだ。頬にさわってみた──ひやりとした触感──手のほうも同じ……胸のしめりをおびたしみにさわってみたとたんに、パッと手をひっこめ、恐怖の眼で指さきを見つめた。 p.11

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 わたしは一、二分のあいだ口を開かなかった。いったいおれはどう考えているのか? いますぐに行動方針を決定しなければいけない。結局は真実が明るみに出るものなのだ。シェイラがわたしの信じているとおりの人間だとすれば、当人の不利になるはずもない。
 わたしはてきぱきとした動作でポケットから一枚の絵葉書をとり出し、それを彼のほうへ押しやった。
 「こんな物が郵便でシェイラのところへ送られてきた

 ハードキャスルはその絵葉書を調べてみた。それはロンドンの建物を写した一連の絵葉書の一枚で、中央刑事裁判所を写したものだった──きちんとした活字体で、左側には、やはり活字体で、記憶せよ! と書いてあり、その下に、四・一三とあった。
 「四時十三分といえば、あの日の置き時計のさしていた時間じゃないか」とハードキャスルは言って、頭を振った」 pp.161-162

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