若冲に圧倒され、鳥肌が立ってしまった。

manrayist2007-05-19

 相国寺承天閣美術館の仮設スペースで自転車を降りたのは10時7分。既に数百人が並んでいる様子である。相国寺創建六〇〇年を記念する今回の展示は、「釈迦三尊像」3幅を中心に両サイドに15点づつ、「動植綵絵」の全33点が一室に並べられると云う。横浜在住の友人が展覧会を目的に明日上洛されるので、その前に観ておきたくて出掛けたのだ。テレビでも取り上げられているので、すごい人だろうと恐れ、土曜日の朝一番に出掛けた訳である。博物館と違って22日間という短い会期、若い人にも人気がある若冲だから混雑するだろうと覚悟はしていたが、異常な人の列であった。

 わたしは、展示を拝見しながら何度も反省した。美術品ではなくて禅の修行、仏の教えにつらなる画業は、本来の場所でこそ魅力を十全に発揮する。単品で展示された時とは異なる異様な迫力はどうだろう、まいったね。個別の詳細な感想も書き込みたいが、第1室の鹿苑寺大書院障壁画「月夜芭蕉図床貼付」は良いね、展示の工夫も素晴らしい。そして、第2室に入って眼と心が一つになってしまい鳥肌がたった。ひさしぶりの感覚だ。これを書き込んでいる、今も心臓のあたりが不思議になっている。冥土に繋がってしまったのだね。暗い部屋の正面に「釈迦三尊像」3幅。それを取り囲んで「動植綵絵」。展示の両サイドは計算された構成で右に「老松孔雀図」、左に「老松白鳳図」。そこに至るまでの距離感は無限に離れているようで、手前の右は「群魚図(蛸)」左の最終コーナーに「群魚図(鯛)」画材や季節が共鳴しあって、冥土への旅を視覚的に一瞬のうちに体験させる場となった。

 しかし、異常な人の数で行列は進まず、最初の一幅から動けないまま。ガラスの上段に貼られた作品解説が揺れている、眼をこらすと人の圧力で、強化ガラス(?)がしなっているではないか。それもしかたないかと。ニ列目にしたがってゆっくりと観る。ギャラリー・スコープも使って「白色、つまり胡粉による白羽表現の裏彩色」を丹念に確認する。いつも、「老松鸚鵡図」のつがいにわたしは魅了されるのだよね。そして、今日、「老松白鳳図」のエロテックさに気が付いた。セックスの頂点で花開く女の性が写し取られているのだ。極彩色の部屋に浸っていたら水墨の世界に戻りたくなった。それで第1室に行こうとしたら一方通行で規制されてしまった。

 指示に従い、スタンプを貰って再度、最初の列に並ぶ。ここからの時間はさらに長い。しかし、買い求めたカタログをじっくり読んで学習する貴重な時間となった。スタッフの人達も反省したのか、厳しい入場制限のもとに誘導をしている。それで、二回目は会場内をゆつくり拝見する事ができた。鹿苑寺大書院障壁画 襖絵を距離を持って楽しむ事ができた。そして、再度、第2室の暗号の読解につとめる。若冲はすごい、これが一人の人間の仕事なんだからな。

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 2時頃、会場を離れ、下鴨を走って恵文社や萩書房を覗く。途中、欧文堂近くの藤芳に入り生粉打ち蕎麦を食す。つなぎをつかわない蕎麦は甘みと香りが魅力で、土上の香りを吸い込んだ感触。そば湯をいただき、世間話をちょつとして店を出てからも不思議な食感が残た。今日は紫陽書院でアンナ・バラキアンの「シュルレアリスム」(紀伊国屋書店、1972年)、宮脇愛子さんのサインが入った個展カタログ(東京画廊刊、詩:瀧口修造、序文:マン・レイ)などを購入した。