サザビーズで朝食を


サザビーズで朝食を』 フィリップ・フック著中山ゆかり訳 フィルムアート社 2016.12刊 21×14.8cm pp.472

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上記の本にマン・レイの『ブルー・ブレッド』(1964年)が図版と共に「イタリック化」と云うキーワードで紹介されている(423頁)ので読んでみた。イタリック化の説明は、「陳腐なものを芸術作品へと変容させる」「流用主義」「特別なものに変容された」とされているので、「マン・レイによってイタリック化されたバゲット」とあると、「やれやれ」の感想だけど、著者はクリステーズに勤めた後、画商として独立し、その後、サザビーズのディレクターとなった人、記述の随所に英国趣味があって興味深い。わたしに関連する「コレクター」部分では、1870年代にフランス税関の官史(わずかな収入)であったヴィクトゥール・ショケへの言及で「先駆者であることの興奮に主に駆り立てられるタイプの珍しいコレクターの一人だったようだ。そしてその興奮は、自由に使える資金源が不足していることによって、かえって強められていたのだろう」と評している。---「自由に使える資金」ってどこにあるのだろうと、年金生活者はうなだれてしまいます。
 その他、「シュルレアリスム」の章でも興味深い記述を読んだ。「シュルレアリスム(超現実主義)は、唯物主義者のための神秘主義だ。その流行は恒常的に続いている。夢の文化の背後にある幻覚的な物語に刺激を感じる人々、そして論理の転覆が引き起こす一見すれば異常だが、最終的には決して脅威を感じるものではない無秩序に刺激を感じるタイプの人々は、今もシュルレアリスムに魅力を感じているのだ。」(266頁)、あるいは「若かりし頃にヒッピーだったことを今も懐かしく思い出す世代が中年後期に達し、最大の消費力をもつようになった21世紀にあって、シュルレアリスム作品が魅力を発揮し続けている(そして価格を上げ続けている)秘訣なのである。」(268頁)---シュルレアリスムを売り出したのはオークショナーの戦略によるといったニアンスの記述もあるが、売れ筋としては、第1グループ: マグリット、ダリ、エルンスト、ピカソ(関連して)、ミロ。 第2グループ: タンギー、デルヴオー、マン・レイ、ブラウネル、加えて女流作家のキャリントン、タニング。黄金期は1930年代の10年間と、著者は指摘している。