「鏡の送り返し」

    • -

平芳幸浩氏の『マルセル・デュシャンアメリカ--戦後アメリカ美術の進展とデュシャン受容の変遷』(ナカニシヤ出版、2016.7刊、定価本体3400円)読了。わたしは、これまで、デュシャンには近づかないようにしてきた。それは、彼のしかけた「謎」や、身振りに尋常ならざる作為を感じていた為だけど、最新の研究もふまえた独自の視点による「受容」の様子は、いくつもの鋭い指摘に満ちて、彼の生涯を改めて時代と評論、マーケット戦略の関連で俯瞰することができた。わたしの関心領域との関連からは、『遺作』の秘匿と複製禁止の事項となる訳だが、「一般的なコレクターの例に漏れず、彼もまた「作品」の獲得に固執する」とするアレンズバーグや、「無名作家の作品が多く含まれていたために」寄贈が頓挫したドライヤーなどの著名コレクターの位置取りから、デュシャンに言及して「デュシャンは作家であると同時にコレクターであり美術史家である。制作者かつ受容者という奇妙な二重性を帯びている」(223頁)とする提起など、頁をとめる箇所が続いた。デュシャンの友人であったマン・レイは自作品の流通と保存、永遠の神秘性について、どのように考えていたのか、この理解をすすめながら、コレクションの行く末を考えなければと思う。