『日本の前衛絵画 その反抗と挫折── Kの場合』

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中村義一『日本の前衛絵画 その反抗と挫折── Kの場合』美術出版社 1968年

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 愚稿では「名古屋時代に本書を読んで惹かれ、わたしの中に北脇が住んでいた時期」と書いた。表紙に使われた『眠られぬ夜のために』を京都市美術館で観た折の光景を思い出しながら、言葉を選んだ。改めて本書を読み直したが、瀧口修造が寄せた序文にある「とりわけ同時代の人間にとっては、絶えず念頭にありながら、自分からは手の着けにくい主題なのである」には、「一人の画家の屈折多い歩みを検討」する難しさ、美術家の「多少とも個人の営為に比重のかかった立場」の社会との複雑なかかわり合いにふれられている。また、著者の中村が北脇の出自に関する恵まれた生活の他方に「拒みえない重い絆」(90頁)があっただろうとする点を、絵画作品とその作者、そして生活と結びつけ、「おいといない」面を強調して「書き進め」ても良いものかと愚稿では躊躇した。北脇がわたしの中に居た時から、およそ50年が経つ。「手の着けにくい主題」にも向かわなければと思う。

 

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佐久間象山(1864.7.11)、大村益次郎(1869.9.4)遭難之碑。  高瀬川、前方茂みに廣誠院。