マン・レイ・トークショーの一日




9時53分東京着ののぞみ106号で上京、もちろんN700系。今回は水道橋から専大通りを下がって神田村に入る。時間が早くて開けていない店が多い。アベノスタンプで巴里の絵葉書を物色、1920-30年代の巴里モノはなかなか見付からないのよね。独や英国が多く巴里の街の様子をとらえた葉書は少ない。わたしはこれを観ましたなんて美術館の絵画作品や寺院の内陣の葉書ばかり、結局、エッフェル塔近くのブルドネ通りの一枚を求める。神田古書センター内を丹念にチェックした後、けやき書店を経て小宮山書店へ。もちろん、捜すのは京都の詩人達、発見は難しい。先月、チャンスを逃した大槻鉄男の「爪長のこうもり」(昭森社、1962年、限定500部、番外)を田村書店で確保し、ご主人と世間話。「諦めなければ、いつか出てきますよね」とわたしがもらすと「長生きしなくちゃな」と笑って応えられた。マン・レイも仲間内では長生きだったなと、一人考え、和モノに繋がる恐ろしい縁を歩き始めてしまった自分を奮い立たせる。呂古書房に上がって佐々木桔梗サフィールオパールのバラ、亀山巌の「モンポルノス」を廉価で楽しむ。最近、亀山さんが注目されているとの話。わたしも、若いときはニガテだったけど、枯れてしまった最近は再読してる、面白いのよ。源喜堂書店でカバー付きの「金丸重嶺先生古稀記念」(1974年刊、限定1000部)を、やはり廉価で確保。以前、同じ源喜堂で手にしたカバー無しより安くて嬉しかった。この本には、氏がマン・レイとパリで会った折の記事再録と、写真集「マン・レイ フォトグラフィス 1920-1934 パリ」の氏宛の献辞が紹介されている。そんな訳で古書店巡りを堪能した。神田警察署前から神田駅に向かい書肆ひやねを捜したのだが、うまく見付からず断念。地下鉄銀座線で日本橋へ移動し、今日が最終日となった壺中居(高島屋百貨店西側)で開催中の金井杜道氏の写真展「仏像の現在--興福寺--阿修羅と八部衆」展を拝見。丁度、会場に作者がいらっしゃったので挨拶。仏様の凛々しいお姿に感動する。モノクロ画像の光と影は、阿修羅の知性と孤独が表面に出ていて、まいってしまう。赤い印の付いた多くの写真を観ながら。それぞれの人の眼差しを思った。外に出ると中央通りのミニ花壇に可愛らしい花が咲き、気持ちの良い時間をしばらくすごす。次いでツァイト・フォト・サロンの安齊重男展を拝見。それぞれの写真に的確な素晴らしいコメントが付いている。筆跡は安齊さんのフットワークと同じだな。しばらく事務所の書棚から写真集や展覧会カタログを取り出し、パラパラ。--- なんと、ピンク色の可愛らしいマン・レイ本を発見。ムムム、「欲しい」。オーナーからは、記念に頂いたものだからと、冷たいお言葉。マン・レイ・イストとしてはショックで立ち直れない。

 わたしが浅はかだった。日本でマン・レイを追っかける限界を、改めて実感する。人生が残り少ないのに、奥は深い。しかたないか、でも、ファイトが沸いてきた。キリキリと欲望がもたげてくるのだ。地下鉄で外苑前に出て、ワタリウム美術館での「歴史の天使」展を覗く。ここにはマン・レイの「エレクトリシテ」が展示されている訳。でも、先ほどのショックで、何も観れなくなっている。




ギャラリー「ときの忘れもの」には4時過ぎに到着。マン・レイ作品が素敵に飾られている。会場は吹き抜けになっていて、マン・レイのアトリエかと思う雰囲気である。さっそく三浦次郎氏と打ち合わせをし、カセット・レコーダーの頭出しを確認。心を切り替えなくては。会場にはいろいろな方が既にお見えになっていて、紹介を頂く。「マン・レイ展のエフェメラ」を購入頂いた方々と始めてお会いする。福岡、静岡、栃木と遠方からの来訪者も多く、つたない話者しては感謝にたえない。トークの内容については、参加者の皆様に喜んでいただけたろうか、短い時間だったが、「マン・レイ展の案内葉書」と云うテーマを、案内状の現物と共にお話出来たのは、嬉しかった。本人が一番、楽しんだのではないだろうか。好きな人の前で「貴方が好きです」って云うの幸せなんだよね。マン・レイの講演テープの一部を再現出来たし、最後には綿貫さんから画廊が1995年7月に開いた「色彩と形象の交響---銅版画セレクション2」の葉書をプレゼントしてもらった(先の本のリスト未収録)、使われているマン・レイエッチングの楽しげなスプーンのように、会場は懇親会に移った。(深謝)


ビールを飲みつつ、マン・レイ等の話に盛り上がり、作品に新しく赤い印が付くのに立ち会うと、作品の新たな人生を思って幸多かれと願う事ととなる。京都のRギャラリーで開催した、わたしのコレクション展を観て下さった方、資生堂マン・レイ展の対談にも参加して下さった方、新しい出会いから友情に発展するだろう予感。参加者それぞれの専門領域が複雑に絡み合って、話はつきない。記念の写真も何枚か。そして、場所を変えイタリアンで、ワインを何杯もいただく。美しい女性達に囲まれてこの世の春となった。いつまでも続いて欲しい。