報告(3) 「百の眼の物語」

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瀧口修造マルセル・デュシャン展カタログ 19×15×2.8cm 344頁 2,300円 瀧口風のシンプルなデザインは森大志郎
今展は国内所蔵品のみで構成された展示であったが、よくぞこれだけ集まったと感謝の気持ちで一杯である。準備されたカタログは、見応え読み応えのあるもので、特に書簡資料集は貴重である。『マルセル・デュシャン語録』の献呈本を知らせる瀧口からデュシャンに宛てた1968年の手紙には、エディション6がマン・レイ宛てになっていて、わたしには嬉しかった。---No.6に関する「黒いリボンの物語」もいずれどこかに現れるだろうと期待したい。明年1月29日(日)で終わった後、巡回はしないと聞いたので、残念な気持ちも残るが、担当学芸員の現代美術に対する、理解の深さと拡がりに千葉市まで出掛けた鑑賞者としては充実感に満たされ、まことにありがたかった。

土渕信彦 企画・構成による「瀧口修造の光跡 III 「百の眼の物語」」リーフレット 21×15cm 4頁 アンカット
土渕も展示に合わせてシンプルなリーフレットを用意し、瀧口の言葉を引用している。「私の心臓は時を刻む。/ ひとつのイメージについて語ることは、/ 釣りあげた魚のことを語るようなものだ。」こちらの展示は12月25日(日)まで、一人でもおおくの人に観てもらいたいと思う。

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 さて、瀧口修造にかかわる個人的な思い出なのだが、京都のギャラリー16で『窓越しに....マルセル・デュシャン小展示』(1978年)の事を聞き、上京する用事もあったので冬の寒い夕方、自由が丘画廊を訪ねた。すで東野芳明の『マルセル・デュシャン』を読んでいたので、解釈の糸口もいくつか持っているタイミングだった。芳名録の最後が「瀧口修造」の名前で、その後に、わたしも名前を書いたのか、どうか、ちょっと思い出せない。その後、いろいろな出会いがあり、今日に続いているわけだが、笠原正明氏から案内状を頂戴したのは、いつだったか、これも思い出せない。そんな訳で、久しぶりに『マルセル・デュシャン語録』(B版)に挟んでいた紙片を取り出し写真を撮った。千葉市美術館で額装されていた笠原蔵の案内状には、瀧口のサインで「Rrose Selavy, ici...」(ローズ・セラヴィ、ここに.. パソコンの関係でアクサン記号がないのはお許し願いたい)と書き込まれている。銀色に塗られた額縁とグラディヴァの影が絶妙に洒落ていて、紙モノが見事に作品になっている、コンセプトがはっきりしていれば、作品になるのだなと、改めて思った(欲しい)。