MOMAの物語について


大坪健二著「アルフレッド・バーニューヨーク近代美術館の誕生」三元社 2012,2月刊 定価:本体3200円+税
京都写真クラブによる「京都国際写真美術館設立に向けて」の草稿に関わった為ではないが、MOMAの初代館長アルフレッド・バーについての本を読んでいる。バーは1902年の生まれでプリンストン大学を経てハーバード大学で研究生活を送った。本を手にしたのは1936年に開催された「幻想美術、ダダ、シュルレアリスム」展でのマン・レイの油彩「愛人たち」の展示写真(97頁)に興味を持った部分もあるけど、読み進むと若き知性の構想した美術館の物語に興奮させられてしまった。近代美術の「系統図」に代表される美術史家の立場は師のチャールズ・ルーファス・モーリィによる「キリスト教美術のインデックス」の後継。鑑定眼にも通ずる「目」の洗練は、もう一人の師、ポール、ジョーゼフ・サクスの影響によると指摘される。理論と実践、客観的な時間軸と絵画そのものの魅力の二つを併せ持って、新しい美術館が創られていく。今日、読んでいた頁には「近代美術コレクションが「近代的」という性格を恒常的に保っていくためには、コレクションを構成する作品は必然的に絶えず新しい「近代的」作品に置き換えられていかざるを得ない」(148頁)とあって、50年を基準にしたようだ。そして、さらに美術館の設立発起人の一人でもあったリリー・P・ブリスの遺贈問題にも興味を持った。彼女は遺贈の条件に、コレクションとされたのちの売却不可はセザンヌの3点とし、それ以外は、美術館側の裁量で他館との交換も可能とされた。寄贈した後、永久に収蔵され続けると望む事の愚かしさを、改めて考えた。読んでいる途中なので、後の展開は判らないが---面白いこと間違いないと思う。詳しくは、大坪健二氏の著作を手にとってお楽しみ下さい。