2003.1.1-1.31 マン・レイになってしまった人

January 31, 2003 

休日を心待ちにする毎日。寒いから計画が実施出来るか不明だが、明日、明後日とやろうとする事がある。 運送会社の担当者がモンテクレール美術館への資料輸送フライトの日時を知らせてきた。その時になると時計を観ながら、感慨深いわたしになるんだろうね。


January 30, 2003 

あまりに寒くて手が悴み、自室でもコートにマフラーの重装備で鍵盤に向かっている。書かなくてはならない手紙、まとめなくてはいけない企画が、冷たさに凍っている。それでもメールで、コレクションによる展覧会の開催が決定したと横浜のT氏から嬉しい知らせ。


January 29, 2003 

ニューヨークのパトリシア・ラリアット・フォトグラフィスから『ナチに踏みにじられたパリ』と題したヴィンテージ写真の展覧会を知らせるカードが送られてきた。2月1日~3月15日までの会期。イラン情勢が緊迫するこの時期、考えさせられる展覧会である。インターネットを通してアメリカの独占に反対する署名活動の輪も拡がっている。

 フランスのオークション会社の重複処理の件だが、誤りのメールが入り、返金してくれるとの事で一安心。カタログは2月中旬に到着し、4月になると、オークション。この内容についても、情報が入り次第、「日録」で報告したい。とりあえずは、横浜のT氏と情報交換。


January 28, 2003 

出掛けにゲイルからのメールに気付いた「展覧会を観て頂くチャンスがあれば、お会いする事も出来るし良いのだけど、出来るだけ早く展覧会のカタログを送ります」。バタバタしたので、髭を剃るのを忘れて出社してしまった。

 先日からの法定調書を仕上げ、午後に税務署へ提出。早く帰宅し、夕食前に入浴。カネボウの入浴剤「ハーバルの香り、若竹色のお風呂」『旅の宿・箱根』で温まる。家族が揃って食事。「きずし」と北海道十勝産「ジャガイモ」でビール。食後の甘い物は六花亭の「大平原」(昨日は「
マルセイバターサンド」だった) 明日は冷えるとニュースが伝えている。


January 27, 2003 

YOU ARE INVITED
PLEASE JOIN AT A DINNER FOR SPECIAL GUESTS AND LENDERS
Montclair Art Museum

 


モンテクレール美術館から『モダニズムへの変革; マン・レイ初期作品』の招待状到着。スペシャル・ゲストとレンダーを対象に2月15日の夜8時から、マリアンとロイのスミス夫妻の自宅で開催されるとの知らせ。出欠は10日までにとの事だけど、行きたいな。案内状に初期油彩の大作『西暦1914年』と『女綱渡り芸人は自らの影を伴う』が印刷されているのだから、血が騒ぐ。講座や上映会等が13用意されていて、ゲイルが2月16日、ナウマンさんが3月9日、マン・レイ評伝の著者ボルドウィン氏が3月16日となっている。
 展示は75点の油彩、水彩、写真とドキメントで構成されるらしい。日本から参加した4点の展覧会資料は、恥ずかしげに会場で大人しくしているのだろうか、旧友と再会して喜ぶのだろうか。この眼で観たいな、でも、アメリカではね。

 遅い夕食だったが、食卓には「くもこ」 刻みネギにたっぷり七味を掛け。ポン酢で頂く。ビールをゆっくり飲んで、良い気持ち。モコモコとしたこの食感はどう表現できるのだろう、
雄の鱈の腹にある精巣の白い塊状のものを「くもこ」と言う、沢山食べるものではないけど、冬場にチョット一杯やるのに良いね。帰宅したら家内は先に酔っぱらっていた。


January 26, 2003 

カード会社の請求書を見て唖然とした。フランスのオークション会社の引き落としが重複しているではないか。急いで返金要請のメールを入れる。上手く訂正出来るだろうか、返事がフランス語だったらどうしようかと、心配。アメリカではこうしたトラブルに遭っていないが、ヨーロッパの場合は、どうもいけない。昨日の楽しい気分が、朝から滅入ってしまうぞ。


January 25, 2003 

運送会社の国際引越・美術品専門スタッフが来宅し、モンテクレール美術館へ資料4点を送り出す。予定では2月6-7日のフライトとの事。寂しくはあるが、彼らの里帰り。マン・レイ最初の個展カタログはドイツから来日したはずなので、東海岸まで戻れば地球を一周し、90年ぶりの故国。生前では認められなかったマン・レイの絵画の仕事が、今回の展覧会で再評価されるのを望む。展覧会『モダニズムの変革; マン・レイ初期作品』については、情報が入り次第、報告したいと思っている。

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 三条大橋から比叡山、北山を望むと雪景色が美しいので、写真をパチリ。京阪三条を東に歩いていたら、アールデコ・スタイルのポスター(?)が掲げられている竹細工の店が気になった。以前から珍しい物だと思っていたが、時間があったので覗いた。Exposition Internationale Des Art Decoratifs & Indvstriels Modernes paris 1925, Le Jury International des recomperses decerne / Monseur Shintarou Moritaとあり、印刷のクレジットが右下に入ってG.L.JAVLMES inv. et Lithと読める。この店の商品を見ながら、数々の賞を獲得した賞状を読んでみる。森新太郎と表札の掛かった『籠新』の店。京都には何気なくこうした店があるので楽しい。

 先週に続きギャラリー16で「ダブルセンス展」を拝見する。鈴木さん坂上さんと世間話。明るいしのぶさんの笑顔に心が和む。芸大で日本画の素材、金とか銀の質感が好きだったので日本画を専攻、でも院では洋画だったと云う彼女の軌跡を伺う。土曜日なのにお会い出来てラッキー。サロン側に鈴木さんの小品2種が掛けてあり、可愛いらしくて素敵。鈴木さんは人柄も良く、男前なので若い女性ファンが付くだろうと、醜男のわたしは羨ましく思う。美術の世界でも、男女共に知的で美しくなければ、やっていけない時代なんだ。


VIOLON
木屋町三条上ル 大久ビル3F
二次会で又、乾杯



 昨年末、開催した一日だけの展覧会『カフエ マン・レイ展』の足洗を木屋町三条上ルの「モリタ屋」で行う。席は二階の御室(?) 中庭を見下ろし風情が良い。メンパーが揃うまでビールを飲む。居酒屋商売と京都のすき焼き屋事情、鴨川の鯉こくの話などをいろいろ、さて、この店のすき焼きだが、ザラメを敷いてから肉を載せる関西風。「糸こんにゃくと肉は引っ付けるとこんにゃくの成分で固くなる」との事で、間にねぎを置く手慣れた箸さばきの仲居さんが鍋奉行なので、任せて、バカ話。わたしはニガテだけど、Tバックと紐パンの違い、網タイツでロリコンなんて、こだわりだすときりがないよね。皮膚呼吸をしない冷たい男の肌、それが良いんだって、となると、話に身を乗り出すよ。美しい表面をデッサンする時、解剖学的にはどうするんだろう、なんてね。ところで、すき焼きに使われている脂身だけど、牛のオッパイの部分なんだって、だから溶けないと仲居さんの解説。いやはや、笑うね。

 『カフエ マン・レイ展』での食事会の反響は大きく、次回を期待する声も大と前田さん。一日限りのこうしたイベント・タイプの展覧会も面白いと話す、しかし、その場で消えてしまうので、ドキメントの重要性を指摘され、「カタログ」の具体化を求められる。
 茂山千五郎家社中の発表会「狂言の会」に食事会の参加者のお一人が出演されるとの話で、久し振りに狂言を観たいと思う。人と人との繋がりが面白い。足洗はバカ話とそうでない話が混在。二次会もそのままで、11時半にお開き。


January 24, 2003 

通勤のお供でセミール・ゼキ箸(河内十郎監訳)の『脳は美をいかに感じるか』(日本経済新聞社 2002年刊)を再読。「画家や美術評論家がしばしば「眼で描く」ことと「脳で描く」こととを区別し、前者が視覚に関する限り多かれ少なかれ受動的な活動であるのに対して、後者は能動的な活動であり、より多くの知性と理解とを必要とするという考え」(148頁)と言う記述や、自立性をもつ「並列処理・知覚システム」と「機能的特殊化」の指摘。「脳が視野の中のさまざまな要素を、大きさ、位置、色、距離、動きなのど点で比較することができる」(150頁)などとあるので、ワクワク頁を進む。
 特に興味ひかれたのは「色、形、動きを知覚するのにかかる相対的時間を測定した最近の実験によって、実はこれらの三つの属性が同時に知覚されているのではないことが明らかになった。動きよりも前に形が、形よりも前に色が知覚され、動きに対する色の先行時間は約60~80ミリ秒だったのである」(142頁)-----絵画論の糸口がいっぱい詰まった本である。
 
 駅を降り、西山を見ると雪景色
が美しい。


January 23, 2003 

昨夏、勤務先が移転してからでは、初めての強い雨。朝、地下鉄を降りて田舎道を20分程歩く。ふくらんでいた梅の蕾と同じように、心も悴んだ。職場でも同じだった。


January 22, 2003 

経理担当者としては法定調書を今月中に仕上げなければならない。目処は付いてきたが年に一回の纏め、行きつ戻りつ細かい整理。昨年の段取りをだいぶ忘れていた自分の事務処理能力欠如にあきれる。
 疲れたのか、退勤の地下鉄でボーとしていた。目眩かと思ったが駅で車体が揺れている。ホームのすべり止めと足元の金属板のズレで知覚する。人の出入でもこんなに揺れる車両(京都市交通局の1606号)ってあったかな。どこのエアー・サスペンションを使っているのだろう----鉄道少年時代の自分を思いだした。

 フロリダのイートン・ファイン・アートからマン・レイの『電気』を紹介する展覧会の案内状が届いた。楽しい贈り物を開く。黒ベタ白ヌキ文字で「芸術は電気のようなものだ、それが何かは知らないけれど、それがしていることは判っている。」(作者不明)と書かれている。会期は1月10日から3月1日まで。カタログは作らなかったとアシスタント・ディレクターのニコルさんが知らせてくれているが、どんな展示なのか気になる。


January 21, 2003 

試験週間の長女とパソコンがバッティング。


January 19, 2003 

フランシス・ナウマン氏がキューレーションをしているモンテクレール美術館での展覧会『モダニズムへの変革; マン・レイ初期作品』の開催が近付いたので、美術館とメールでやりとり。貸出し予定資料4点の複写と最終の状態確認を行う。保護用のフィルムを買いに出掛けようとしたが、午後から降雨。運送会社のピックアップまでに準備出来るか心配。

 喉の調子が今一つであったが、ポーラの入浴剤「シンフリー ミルキィバス」で温まる--ぎょっとする色彩の中に身体が消えていたけど「しっとり・なめらかな湯上がり感」。夕食は一杯飲みつつ、鱈を入れ、森嘉の豆腐で湯豆腐。風邪薬も飲み対策万全。しかし、明日は会議だから気が重い。


January 18, 2003

京都国立近代美術館
「ウィーン美術史美術館名品展」
会場へのエントラス




京都国立近代美術館で「ウィーン美術史美術館名品展」を観る。デューラー、ティントレット、アルチンボルト、ルーベンスといった巨匠の名画を楽しみに出掛けたのだが、No.14のティントレットによる『法王パウルス3世』が良い、マン・レイが研究し手に入れた技術「人物を3/4正面で描く曲型的な構図の肖像画」を確認、マン・レイは写真にこれを応用したのだよね。ポスターに使われているベラスケスの『青いドレスのマルガリータ王女』よりも、異母兄弟の『王子バルタザール・カルロス』の方に感心。王子の足元に差し込む光と影、所在無い影の行き先が王子の生を象徴していたのかな。宮殿の構造が反映してるよ。20年前に新婚旅行で「ウィーン美術史美術館」を訪問したが、当時のわたしは了見が狭く、展示品をあまり覚えていない、風景画も「16世紀の地誌的で壮大な風景が、17世紀の自然主義的描写になっていく」とはいえ、延々と油彩が続き、まいってしまった事だけを覚えている。当時のスクラップ・ブックに赤色の入場券の半券が貼ってあって、「Preis S10.-」とある。

 しかし、50歳になって無心(?)に絵画を楽しむと、ハプスブルク家コレクションの素晴らしさに感激する。特に導入部分に置かれたNo.1ロヒール・ファン・デル・ウェイデンの1430年の仕事『聖カタリーナ』、板に描かれたイコンが良い。18.8x12.1cmの小品だけど存在感が違うんだよ。作品と壁面のミスマッチを海外名品展では感じる事が多いのだが、この作品にはそれが無い。ウィーンから京都にやってきている距離感、旅行の身支度があるのだよ。額装の下部が斜めフラットになっていて光が上手く反射しているのに見とれる。この感動、疑問は、後で西村規矩氏の講演を聴き納得する---この作品は聖母子像と対になった旅行用の祭壇画で、彫刻的扱いをされるもので、この構造をリプティックと呼ぶとの説明。プライベートな場面であるかもしれないが、この絵の前でミサを行ったと思われるとの事。 蛇足だが、西村氏の記念講演会の定員は100名。わたしは65人目だったが、整理券配布10分で締め切りとなっていた。すごい人気だ。

 みすず書房からカルヴィン・トムキンズ(木下哲夫氏訳)による『マルセル・デュシャン』の評伝が最近刊行されたが、「網膜の喜び」に浸るわたしが、今日もいる。美術史的な重要度は不明だが、No.78ベルナルド・ベロットによる『南東から見たウィーンのフランウインク』なんていう都市景観画に見とれるんだよ、遠近法に騙される網膜。解っているけど、心地よいのよね。


ギャラリー16
「ダブルセンス展」会場
自作(左)と野村作品(右)に囲まれて立つ
鈴木崇氏



 旧知の野村仁さんと、若い作家、鈴木崇氏による「ダブルセンス」展を観にギャラリー16へ。オーナーの井上道子さんに紹介してもらったので鈴木さんといろいろ話をする。京都在住の氏は、写真の仕事をされているので共通の話題もあり面白い。自身では絶対に見ることの出来ない背中を撮影した「Haut(皮膚)」のシリーズは、野村さんがとらえた火星の表面と通底する。物理的には近いのに、視覚的には無限な距離が存在する自身の背中。細部のデテールが拡大され、再現されている。アクリル(?)加工されて、印画紙としての染み、皺、埃りから守られ、重力から自立した皮膚。視覚的なイコンが作られていると思うのは、わたしだけだろうか。これは、引力と斥力が拮抗した状態で浮遊する表面といったもの。野村さんの火星までの距離の対極にありながら、同じである、二つの皮膚。どちらの表情にも不思議なあやうさが漂っている。鈴木さんの仕事を今後注目したい。

 写真撮影に気軽に応えてくれた鈴木氏。「ダブルセンス」だから野村さんの「火星:太陽と石」と並んだところが良いとコーナーに立ってくれた。展覧会は31日まで開催されている。


January 17, 2003

帰宅すると玄関のミニ色紙額が「鬼は外、福は内」に変わっていた。明日は、床の間の掛け軸を変えなくてはと思う。さて、何にしようかな---

 写真家の梅津フジオ氏から依頼があり、『日録』の年末文字部分を携帯に送信する。

 ニュー・ヨークのヤン・ダー・ドンク画廊から"
hazel larsen archer : photographer at black mountain college"を特集した写真展の案内がメール配信されてきた。サイトを覗くとjohn cageの若い写真や踊るmerce cunninghamが画面に胴体だけを残した面白い写真等があった。写真は日常と共にある。充実し素晴らしく楽しい生活がなければ、結果的に写真も残らない。毎日の生活の中で、被写体に対する客観性を身につける事は、常に疎外される自分を持つ訳で、写真をやるものの宿命だと思う。残された写真を楽しむのではなくて-----写真は時間が経過すると熟成し芸術になってしまう。----カメラを媒体にして積極性を獲得する方法。いや、身体、眼、手の延長としてカメラがあっても良いよね。無意識のカメラ、自然体のカメラ。リコーGR1Vなんか、このコンセプトだよ。


January 16, 2003

オークション結果に悶える身であるが、横浜のT氏から元気の出るメールをいただいた。


January 15, 2003

ネットサーフィンで2月の初めにマン・レイの油彩4点が相次いで出品されるオークションの情報をつかんだ。不思議なもので、内3点が1920年代の作品。図版や写真で知っていたイメージが、ネット上では透過光に等しくなるので輝いて綺麗に見える。これなら以前、トライしていたよなと思ってしまう。どんな作品だろうと想像が膨らむ。現物を見ていないのだからオークションは怖い。
 白黒図版では、どうしてみんなが好きなんだろうと理解しにくかった『スペイン風景』に、マタドールの赤い布が3箇所描かれているのを知って納得した。短時間にパレットナイフ等を使って描かれた油彩。写真の仕事に忙殺されながらも、油絵具から逃れられなかったマン・レイテレピン油中毒だったと彼は回想している。
 油彩が欲しいよ---オークションの結果が気になる。まだ、しばらくは価格が高騰しないで欲しいと、こまった願いを一方でしたりする。


January 14, 2003

資金の枯渇したコレクターほど、情けないものはない。


January 13, 2003

帰路の新幹線でビール、『トランスアトランティック・モダン』を読了。第五章の「アメリカニスム」という現象は初見。「ダダイスムの真の魂」と形容されたスーポーの「アメリカのテンポ」についての逸話。ピエール・ド・マッソの「無類のコーラ好き」等。そして、マン・レイ理解に役立つ指摘として「一般に「エクスパトリオット」(国外在住者)とは、祖国アメリカの文化から疎外されて幻滅を味わった人びとの謂いであり。彼らは故国に対して一定の距離を保つか、さもなくばあからさまに反=祖国の立場を貫こうとするいちじるしい特徴を共有していた。アメリカの辺境性についてつねに皮肉で冷笑的な態度を崩さないといったことは国外在住者のほとんどが反復してみせる典型的な身振りと称すべきものだろう。------アメリカ人たる自己の出目を抹消しひたすらヨーロッパに同化すること、つまりはコスモポリタンという名の文化的無国籍者へと執拗に変身を遂げること、それが国外在住者の見果てぬ夢であったと言えば、大方の賛同を得られるであろうか」(221頁)と記述されている。この本で、冷笑的態度がマン・レイだけでは無かったという発見をした。


January 12, 2003

広小路桑名町
三井住友銀行





カメラを片手にブラブラと名古屋駅から美術館に向かって広小路通りを歩いてみた。高校時代、杉浦君と丸善から納屋橋に向かってよく逆方向を歩いた事を思い出した。それで、当時の雰囲気を探してみるが、随分と変化して想像も出来ない程になってしまった。特に写真部時代、お世話になった写真店のヒダカヤが無くなっていて残念。

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 前日に名古屋市美術館の展覧会を確認していたので、拝見し、興味惹かれた部分を報告する。

1)名品コレクション展
 特集が「下郷羊雄の芸術」なので期待。常設展示室の入口に油彩3点と超現実主義写真集『メセム属』を展示。スパイラル装幀の小型写真集は2冊置かれ、限定番号が判読出来る方は、頁左上に緑色のスタンプで「限定200部の内/メセム属 No158」と読める。小型本がケースに入れられているので、展示の仕方に工夫が必要かと思う。ケースに置かれるとインパクトが弱くなってしまう。
 『伊豆の海』を久し振りに観る。状態の悪い油彩だが、額装が最近変わったかと、そんな所に興味がいってしまった。下郷さんの他の作品を見たかったのだけど----

 コレクション展の本日の収穫はフリーダ・カーロの『オブジェによる自画像』 アッサンブラージュの構造をいろいろ点検。WALT WHITMAN詩集の固定方法等に目が行く。フリーダの物語が一方で流れる標本箱のイメージが面白い。この作品を題材にして、学芸員
山田諭さんが2月9日に「愛の贈り物の中身とは?」と題してコレクション解析学2003の美術講座を開くとの事。彼の話が聞きたい。2点アッサンブラージュが掛けてあるのだが、どういう関係だろう。箱と紐ので作られた右側の作品。古い物なのにテープが劣化していない、この秘密も知りたいな。

2)坂田稔写真展--第�部
 「スタートを撮る」「ブレによる街角スナップ」「餘塵」の3点を面白いと思った。1934-38年頃の写真だけど、写真らしいから面白いのかな。

3)現代美術のポジション2003--吹き抜ける新風
 東海地方で活躍する若い作家9名の展示。女性の方が元気かもしれないが、私はマニアックな小川信治と杉山健司が好き。手帖にメモしたくなった小川さんの言葉---「PIROUETTE(ピルエット)とはバレーの用語で、片足立ちでクルクル回る技」この人の消し方が上手い。 そして、「スパゲッティ箱」から光が差し込む回廊を創り出した杉山さん。会場設営後に撮られたカタログは福岡栄さんの写真集になっている。

 深谷克典さんの講座『芸術家にとってミューズとは』を聴きながら、美術館を後にした。

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 久し振りに実家に泊まる。母親が寝てから兄と世間話。ピーナッツの皮を剥きつつ、次々とビールの栓を抜く。北朝鮮の脅威やデフレ・スパイラル、人生の厳しい現実の話。2時に就寝。


January 11, 2003

展覧会用の企画書と所蔵品リストを仕上げ郵送。自転車で写真の現像とチケットショップへ。千成チケットサービスでは「大レンブラント展」の前売り券が当日売りより700円安の800円で取り扱っていてビックリ。これは賢い、それにキュッチ・コピーで「あなたは京都で、それともドイツ」などと書いてあり、うなった。これからは、ここで買おう。

 ゆっくり風呂に入り、ビールを飲みつつ、家族四人が揃って夕食。その後、久し振りにネットサーフイン。明日、名古屋に出掛けるので、調べたい事をチェック。


January 9, 2003

仕事が猛烈に忙しい一日だった。それでも、楽しみは通勤のお供。今日は、わたしの愛読書である『セルフポートレイト』についての言及に村田宏氏に同感と思う部分があった---「機知と諧謔が縦横に交錯するマン・レイの自伝には、ときとして、虚偽といって悪ければ、粉飾もしくは錯誤がまぎれこんでおり、その内容のすべてを真とすることは適切ではない」(p.150) とし、その脚注に「たとえば、デュシャンのあとを追うようにパリに赴いたマン・レイが、1921年7月14日の革命記念日当日、ル・アーヴルに到着したとする記述(船は1921年7月14日にル・アーブルに入港した)は事実とは異なり、実際には7月22日であったことがあきらかにされている」----Perpetual Motif:The Art of Man Ray <Man Ray and Paris>と、デュシャン宛ての手紙で解かれた具体例を示している。


January 8, 2003

通勤のお供である村田宏氏の文章に「時代と深く通底していた………」との記述があり、キーワードの「通底」に関心。ブルトンの『通底器』を連想するので、大好きな言葉なのよ。

 夕食が「おでん」だったので、調子にのり日本酒を飲み過ぎた、それで眠い、でも、なんとか企画書を仕上げた。次はリストの校正に取り組む予定。


January 7, 2003

鈴鹿芳康夫妻
ギャラリーマロニエ
新春パーティ会場



ギャラリーマロニエで開かれた鈴鹿芳康さんの新春パーティへ出席する。初対面の奥さんに羨ましい家族写真への憧れを伝える。上手いワインとチーズでちょっとした新年会、京都写真クラブのメンバーも多数参加している。偉大なシェフ吉川さんから、先のカフェ・マン・レイ展の文献資料の作成を期待される。正月はポスター展の企画書に力を注いだので、これから、再度、カタログの計画を練ることとする。前田さんも部数が多い事を期待するようだが、さて、どうするか?  50部が自然と思いつつあるのだが。会場で鈴鹿さんにポスター展のキー・パーソンを紹介されたので、まずは企画書の完成に力を注ぐ事になりそうだ。安東菜々さんと再開、懐かしくて感激、スナップ写真をパチリ。


January 6, 2003

村田宏氏はわたしより一歳年下だが、対象との微妙な距離の取り方が、わたしの理想とする文体と一致して楽しむ。通勤途中の細切れ読書だが、電車の車中でマシンエイジのピカピアの事を思ったりするのは、理にかなう。マン・レイが屈折した感情を持ったアレンズバーグのサロンに同席している感覚。その場にいて写真を撮っている人物の距離感がある。

 旅行に出ていた次女が帰宅。土産話を聞きながら、楽しく鳥のミンチ鍋モチ入りをいただく。


January 5, 2003

明日からの仕事始めで気が重く、寒波襲来で身体も冷え切る。リクエスト本が入ったと年末に連絡が入った京都芸術センター図書室へ『トランスアトランティック・モダン』(みすず書房 2002年9月刊 定価4,800円)を借りに出掛ける。書店でパラパラ見たのみだが読みやすそうなので申し込んでいた。著者の村田宏氏は静岡県立美術館、横浜美術館学芸員であった人。「あとがき」最終の記載に「2002年7月22日 マン・レイの最初のパリ到着の日に」とある。従前であれば買い求め自室の書棚に収めるべきテーマの一冊であるのだが、諸般の事情がそれを許さない。読みながら鉛筆で線を引き書き込むのがわたしのやり方だが、図書館の本ではそうもいかない。今日、図書室で展覧会のカタログを見ていたら、横浜美術館マン・レイのオブジェ3点が所蔵されている事に気が付いた。東京のある画廊に展示されていた作品だと推測する。

 正月休み中に仕上げる予定のポスター展の原稿が遅れている。しかし、ポスター96枚をリスト・アップし、展覧会の目的を一応整理、これからパソコンに入力して推考する予定。ちょっと一杯飲みたくなってきた。


January 4, 2003

雑用を幾つか片付け。ポスター展のリスト作りに取組む。


January 3, 2003

国立文楽劇場舞台
緞帳は「朝暉青松」
土佐光茂作と伝えられる屏風画を基にしている。
舞台上部には新春恒例の「にらみ鯛と凧」。

 

 文楽の初春公演を観に大阪日本橋国立文楽劇場へ出掛ける。20年程前には良く観劇したという家内は人形浄瑠璃が好きで、祖母が娘達が解りやすい演目というので、第2部を申し込んでくれた。「祇園祭礼信仰記」「壺坂観音霊験記」「団子売」の三本。正月らしい華やかな舞台を楽しむ。集中すると演者が消えて人形だけに生が与えられるようになるとは家内の説明。わたしも集中してみたが松永大膳を演じる吉田玉女がいまひとつで、悪役の意地悪さが出ていない、男の人形はダメなのかなと人間国宝吉田文雀の雪姫に焦がれた。お姫様だけど、亭主もいるので色っぽいのよね。わたしは古典芸能の世界については無知なのだが、日本人の感性についてちょっと考えた。それに、見せ物として「文楽」は完成されている。金閣のセリ上げセリ下ろしはビックリさせられたし、桜の華やいだ雰囲気から、物語の進行で花びらが舞い、雪姫が爪先で描いた鼠が縄を食いちぎる魂となり驚かされる。いままでのわたしは観劇が苦手だった、それは、舞台のソデが演者を現実に戻し、その仕草から目が離れない為、芝居に同化出来なかったのだが、「文楽」では、上手い仕掛けで、演者の日常が舞台には存在しなかった。人形の動き、黒子の動作、太夫の間等々。今晩の出演は「金閣寺の段」の三味線が鶴澤寛治。「沢市内より山の段」の太夫竹本住太夫箏曲をする家内は太夫や三味線に集中していたが、後で彼女に聞くと、丁度良いところで、観客の大多数が「床本集」の頁を捲る音が耳に入って現実に戻され怒ったとの事。20年前に顔を覚えた出演者を教えくれた。正月公演では手ぬぐいをまくのが恒例らしいが、運良く手に入れる事が出来て良かった。わたしの役割はこれだとは家内の弁。「文楽」と赤い染め抜きの下に「平成15年初春公演」の文字、絵柄は「団子売」の杵造とお臼。5人で楽しく観劇した。

 京都に戻って、みんなでビール。娘に誕生日のお祝いをもらった。カードには「お父さんへ お誕生日おめでとう。これからもよろしくね。体に気を付けて、がんばってネ」と書かれている。わたしも51歳になったが、たよりない父親である。


January 2, 2003

お茶菓子に家内が好きな亀屋陸奥の「松風」を用意し、家族でミニ茶会。表千家を習う長女が点てる。彼女は祖母と作法についての話。「石山本願寺織田信長に攻められた籠城時に大塚治右衛門春近が考案した「松風」は、本願寺十一世顕如が、後に菓子をしみじみと味わいながら、「わすれては波のおとかとおもうなり枕に近き庭の松風」と歌を一首詠んだことに由来するという。」 雪がちらつく正月二日。 静かに籠城を続ける我が家の経済状況に思いをはせる。

 午後、マン・レイ再評価の世界的潮流とポスターとの関係を考慮しながら『マン・レイ、展覧会のポスター展』の原稿をゴソゴソ書く。祖母と娘達は花札の「ハチハチ」を大騒ぎして楽しんでいる。一段落した次女と居間で「羽子板」のラリー。早風呂に入り夕食。今晩のコックは娘二人。BORDEAUXのChateau Gilletを開ける。娘達は「ハチハチ」を再開。わたしは良い気持ちになって長椅子でウトウト。10時に就寝。


January 1, 2003

自宅「床の間」の正月飾り。


 明けましておめでとうございます。

平成15年元旦

マン・レイ狂い

京都の朝は底冷えでしたが、良く晴れて気持ちよく新年をむかえました。
今年はどんな年になるだろう、氏神様に出掛け無心で手を合わせました。
御神酒を頂き、気持ちよく元祇園社から帰ってきたところです。

年賀状を読みながら、頂いた皆様のご健康とご多幸をお祈りしています。
今年も、この『日録』をベースに、コレクター生活のドキメント報告を楽しく、しぶとくやりたいと思います。----読者の皆様のお便りを心待ちにしています。どうぞ。メールで感想等をお願い致します。

昨年の収穫は、


Books----
Man Ray Paris Photographs 1920-34, 2001. 
Perspective of Man Ray, 2002.

Catalogues----
Man Ray L'Ouvre Photographique, Bibliotheque Nationale, Paris, 1962. 
Man Ray, Gemini Gel, 1967.
man ray mains libres, galleria il fauno, 1972. 
Man Ray, Galleria Michaud, 1973. 
Man Ray, The Institute of Contemporary Arts, London, 1975. 
CHAMPS DELICIEUX, University of Toronto Art Centre, 2000. 
photographies de Man Ray, Bunkamura, 2002. 
Man Ray VOYEUR/VOYANT, 2002.

Posters----
Man Ray OEUVRE GRAPHIQUE, LA HUNE, 1972.
Man Ray, JACQUES DAMASE GALERIE, 1977.

Invitations----
Man Ray, Galerie Rive Droit, 1959. 
Man Ray Objects of My Affection, Cordier & Ekstrom, 1965.
Man Ray Family & Friends, Bernard Jacobson Gallery, 1982. 
Man Ray Vintage Prints, Galerie Berinson, 2002. 
Kiki of Montparnasse, Zabriskie Gallery, 2002. 
Cafe Man Ray, Cafe Man Ray, 2002.

Periodical----
Art News, June 2002.

といった品物でした。2002年12月に『カフェ・マン・レイ展』で実現できたように、これらを紹介する機会を、今年も持ちたいと思います。

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 朝、弟家族と共に家内の実家で新年のお膳を頂く。箸紙には家族それぞれの名前が印されている。その他、取箸を入れた箸紙に「組重」と印すのが習慣の様子。両方が削られて細くなった両口の箸で、手作りの品をいろいろ頂く。金粉の日本酒で酔っぱらい、昼から一眠り。パープルサンガが天皇杯で鹿島を逆転で破り優勝した事を知る。

 夕方、知人の日本画家内田広己さんの家族が来宅して新年会。まず座敷で抹茶を頂く。そして、おせち料理で世間話。氏が持参された純米吟醸〆張鶴」(新潟県村上市、宮尾酒造)を楽しむ、これは美味。