SPレコード鑑賞会

manrayist2007-10-12

 京都7時9分発の「のぞみ82号」で上京。品川で下車し山手線で恵比寿へ、東京都写真美術館に10時前到着。早速、学芸員のJさんから企画準備中の展覧会「写真とシュルレアリスム」についてうかがう。このテーマは昔、ポンピドゥ・センターやコーコラン・ギャラリー等を巡回して開かれ、ロザリンド・クラウス、ジャン・リビングストン、ドーン・アデスといった第一線の研究者が執筆した大冊のカタログからの問題提起が気になっていたもの。現在の日本でこのテーマを真正面から取り上げる情熱と問題意識を持った学芸員はJさんしかいないと思っているので、進行状況や彼女の考える新しい視点を期待し、お話を聞きたかった訳である。美術館の厳しい財政状態にしばられながらも2008年3月8日から5月6日の会期で開かれ、シンポジュウムも予定されていると聞いた。美術館の展示は作品をどれだけ集める事が出来るのかが、勝負の別れ目だが、10年をかけてきた企画との事、熱く見守りたい。そして、この展覧会のプレ告知ともなる原稿を彼女は雑誌「AVAMNTGARDE」(注)に寄稿されている、題して「痙攣する美」。図版ではアジェとタバールが紹介されている。

 お話の後、図書室に寄り1936年刊のフォトグラーベで刷られた写真集「28の裸婦研究」を閲覧。マン・レイのソラリゼーション作品が一点含まれた本だが、ぬめっと修正された6人の女性が、なんとも艶めかしい。こうしたフラットな性器についての、論文をいずれ書きたい。それから開催中の二つの展覧会を拝見。懐かしい写真たちだったが、3階会場の最後に置かれた小原健の顔のクローズアップ「ONE」5点に心を動かされた。

 午後、飯田橋古書店アルテリアに移動。美術洋書の品揃えとしては都内で一番の店なので、くまなく棚をチェック。店の奥で「欲望の眼差し」と題されたハンブルグの美術館で開催された展覧会のカタログを発見。珍しい文献資料、エロテックなマン・レイ写真などが含まれていて満足。ドイツ人は、こうしたのが好きなんだなと感心した。

 続いて、京橋へ移動し、ツァイト・フォトサロンへ。オーナー氏と世間話をいろいろ。せんだいメディアテークで開催された「つくば写真美術館からの20年」展のカタログを頂く。そして、秘密の部屋で1930年代のSPレコード鑑賞会。素晴らしい臨場感、迫力のある音だ、人間の音なんだね。スコアが総て頭に入っているコレクター氏はみずからタクトを振りエクスタシーの世界へ。わたしの知らない世界だけど魅了された。

 画廊を出て、表通りのブリジストン美術館へ。「セザンヌ4つの魅力」展を覗く。今日は5点並んだクロード・モネが良かった。歩き疲れ、作品の前に置かれた椅子に座る。ピンクの壁の中央に掛けられたジョルジュ・ルオーの大作「ピエロ」こいつが良かった。絵筆を持つ手だな、先程のタクトのように、人がいなければ、心には届かない。

 ホテルで約束していたので日本橋から人形町へ移動。先輩に連れられ季節料理の店、さがみへ。くじら、つぶ貝、とり貝の刺身から頂く。カウンターでビールをぐびぐび。そして、いろいろな世間話。焼き秋刀魚、白魚の柳川、おでんと続け、日本酒に移る。江戸前の貝、お魚の美味しさといったらない。女将さんと記念写真。ブログに載せても良いですよと、言って下さったが、横に居るのが、このわたしでは申し訳ない。足取りも覚束ないほど酔っ払ってしまった。先輩に送ってもらってホテルへ。忙しくも楽しい一日だった。


注)7月10日発行の3号、INTERARTE編集部刊。電話045-508-0544 来春にはシュルレアリスム特集号が予定されている。